材料の信頼性①

こんにちは
材料技術者のつんちゃんです。
私の仕事は主に工業の世界でどこにどんな材料を使っていくのか、調子よく使うためにはどんな工夫をすればいいのか、ということ実験したり調べたりしています。
工業にしても農業にしても、何かものづくりをする人にとって材料の信頼性というのは必ず付きまとってきますよね。このnoteでは、安全安心な製品をお客様に届けるために、気を付けなければならない材料の信頼性について書いていきます。

初回は、材料と産地の話です。


農作物を原材料として扱う、料理人や食品メーカー、または建材メーカーの方にとっては、材料の品質が産地によって異なることは周知の事実だと思います。農作物の品質は気候や天候が大きく影響しますので、当たり前の話です。

ところで、私はこのタイトルに「信頼性」と書いたのですが、前の段落には「品質」という言葉を使いました。ここで話をしたいのは、質が高いか低いかはさておき、予想していた品質のものが安定して入手できるのかどうか、ということです。これを「信頼性」と呼ぶことにします。
つまり、信頼性が高い場合はいつでも似たような出来栄えのものを手に入れることができ、信頼性が低い場合は買ったものが届いてみなければその出来栄えが分からない、ということになります。

工業製品などにおいて、急に故障が出始めたとか、加工精度が出なくなったとかは、だいたいにおいて原材料の信頼性の問題がかかわっています。しかしながら、機械屋さんや加工屋さんにおいて、材料の信頼性、つまりばらつきの大きさまで約束して買っている人はそんなにたくさんいません。なぜでしょうか?

それは、多くの場合、信頼性を確認する方法をお互いに知らないからです。

材料の完成検査

普通、お客様にお出しする製品は、それが機械部品であれ食品であれ、完成検査ののちに出荷されます。レストランではシェフが見栄えや味付けを確認しますし、パソコンは動作確認をして出荷しますし、自動車などは完成検査の方法が間違っていたとか検査員が認定者じゃなかったとかでニュースになるほどです。
では、材料はどうでしょうか。

工業製品の場合、このように使ってくださいということで、使い方の説明書があるくらいですから、作り手が使い方もだいたい把握しています。だからメーカーもお客様の使い方を想定して検査をします。例えば子供用のおもちゃなら、何回床に落としても割れない、とかそういうことを想定して、何回落としても壊れない材料や構造を考え出し、そして完成品のココをチェックしておけば簡単には壊れないという点を特定し、その部分を検査してOKのものだけを出荷します。
しかし、材料の場合はそれをどんな風に使うかは、お客様によってばらばらです。ですから、材料メーカーがチェックする項目だけを見ていても、信頼性の高い材料を買い入れることはできないわけです。

地域によるばらつきの違い

私は以前の仕事でシリコンカーバイド(SiC)というセラミックの粉末を購入していたことがあります。SiCの製造には、大きな電力が必要なので、電気代の安い国で作られることが多く、スウェーデンやブラジルといった水力発電が主力の国はその一例です。日本では、豊富な水量を利用し電力を自給している屋久島でも作っています。

ある時、このSiCの粉末を中国で安く売っているメーカーがあるので、中国産にしてはどうかという商社からの提案がありました。当時私のやっていたことはこのSiCの粉末を固めてレンガのようなものを作ることでした。
そこで早速購入して試作品を作ることにしたのです。中国製の粉末は色目が少し白っぽく鮮やかなグリーンではありませんでした。なにぶん中国製でしたから、少しの品質の違いはある程度予測していましたし、完成部品としての強度や成形性が確保できていれば問題はないと考えていました。

果たして、少しばかり軽く隙間が多いものの、モノとしては十分に使えそうだということが分かりました。

ところがしばらくして・・・
製品に不良が出始めました。
すべてがダメ、ということではなく、一部に問題が発生しているのです。


SiCの粉砕粉末の用途のほとんどは機械加工用の砥粒なので、重要な指標は硬さと粒のサイズです。研磨砥粒の大きさは篩で分級するので篩の目の大きさで決まっていますから、メーカーはそれを守るようにふるい分けして製品詰めを行うわけです。今回もそのような基準で納入されていました。しかし、当時の私の仕事に重要だったのは、粉を詰めたときにどのくらいしっかり詰まっていて、どのくらいの隙間ができているかということでした。粉を押し固めたときのつまり具合は、粒の大きさだけでは決まらず、粒の形や大きい粒と小さい粒の数量の割合や大きさの比率などが関係していて、確認するには実際に詰めてみるのが一番です。不具合が出た後も何回も試作をしてみましたが、つまり具合は変わらないように見えました。

ある時、切断した断面にとても密に粉が詰まっている部分がありました。そこを調べると、すごく細かい、それこそ小麦粉のように細かい粉がぎっしりと詰まっています。とても小さな範囲なので、部品としての重さには影響がありませんが、色むらや強度の不具合にはつながります。

メーカーからの検査成績書をさらに読み込んでみたところ、最も細かい2ミクロン以下の粉の割合は2%以下で変わらないのですが、以前のものと比べるとその2%の中に含まれる粉のサイズが小さいということが分かりました。いやいや、より細かい粉が含まれている場合がある、といったほうが適切な表現です。何しろ、必ず不具合が出るわけではなく、たまに入っているんのですから。

商社さんにいろいろ調べてもらったところによると、中国の工場では粉砕の設備によって微粉のサイズが異なり、規格に入っていないサイズのものはコントロールしていないのだということで、おそらく粉砕した設備の違いによって粉の品質が異なるということが分かりました。
日本や欧州のメーカーでは、通常設備の能力は製造メーカーがきちんと把握をしているものですが、中国では製造メーカーがさらに中小のメーカーに製造委託をしており、その中小の設備事情や品質まではコントロールできていない上に、そいつらも全部混ぜてパッケージだけ同じものを使って出荷しているのだとか。

しかしながら、特定の工場の特定の設備を指示して購入する場合は、在庫調整などの問題から安く買うことは不可能だと分かったので、結局中国製の原料に変更する取り組みは中止となりました。

信頼性とは

今回のケースは細かすぎる粉は悪影響を及ぼすということを知らなかったことが不具合につながったので、一時的に問題が起きたとしても、この事実が分かったことはとても良かったと言えます。
しかし、通常、工業製品で使う材料は、製造する設備や工場によって、品質はばらついているし、何をどういった頻度で守る必要があるか、ということは自分で決めなければならないということです。
重要なことは、着目している品質を損なう項目において、数値外れが発生するのは、どのくらいの頻度であるかということです。

今仕入れている材料の特性が、いったいどのくらいの割合で外れ値をとるのか、きちんと把握できているでしょうか。

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