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魚群と鳩さんと宮田とアジ

木更津港に到着したのは16時頃でしたので、あと1時間もすれば日没に差し掛かり、夕マヅメといわれる釣果が期待できる時間帯となる計算です。早々に準備に取り掛かりました。


「JBさん、あれ何!?」

僕が宮田と自分のタックルを組み立てていると、既に釣りを始めていたびめしの大声が堤防に響きました。


慌てて水面を覗き込むと、岸から10m近く先、絨毯のような黒い影が見て取れました。魚群です。

「アジ?ボラ?…いや、シルエットが違うかな」

当時魚の知識が禄になかった僕には全く見当が付きませんでしたが、時折群れの中でもじうった魚体がキラリと光るのをみる限り、これまで釣った魚のいずれとも異なるのはわかりました。


しかし、魚群の中心に餌(オキアミ)仕掛けを投げ込んでもまるで反応しません。びめしのルアーにもどこ吹く風で、何にも興味がないようでした。


しかしー


「かかった!」

びめしのルアーの鈎には、20cm強の魚が背中から引っ掛かっています。


「これは…コノシロかな?」


コノシロ。幼魚はシンコ、若魚はコハダと寿司ネタで有名な魚ですがこんな近場で釣れるとは知りませんでした。



「コノシロか…ここまで大きくなっちゃうとそんなに美味しくないんですよね。逃がしましょうか」


その後もコノシロはびめしのルアーに定期的に引っ掛かるものの、ほかの面々は完全に不発。あっという間に暗くなってしまいました。


僕は再び焦りました。せっかくの東京初釣行に来てくれた2人をこのまま手ぶらにさせてしまうのはあまりに忍びない。


「びめし、あかんわ。暗くなったし浮島に行こう。なんか釣れた方がいいじゃんね」


「わかりました、アジですね」

内心同じ思いだったのでしょう、びめしもすぐに了承し一路浮島にカーシェアのプリウスを走らせます。


浮島に着いたのは夜7時。鳩さんも宮田も相次ぐ移動に少しお疲れ気味でしたので短期決戦は必至です。


僕はさっさと電気ウキ仕掛けを準備して半ば祈るような気持ちでウキを見つめました。アジのいるタナは大体2-3m、居れば喰ってくるはず…


すると、水面で仄かに光る赤い電気ウキが微かに揺れ、

夜の水面に浮かぶ電気ウキ(画: JB)


スウッ

赤い点がぼわっとした仄かな明かりに変わる瞬間がたまりません(画: JB)


と吸い込まれました。


「きた…!!」


一呼吸おいてから竿を立てると、手元にぶるぶると小気味の良い感触が伝わります。間違いない、アジです。


そのままぶっこ抜くと、キラキラとした魚体が常夜灯に照らされて堤防に打ち上がりました。

「アジや」「アジですね!」


鳩さんと宮田が沸き立ち、さらに間もなく2人のウキも続々と水中に吸い込まれ、アジを手にすることができたのでした。


「JBさん、釣れました!」


慣れない手つきでアジを拾う鳩さんを見て、9月にびめしをハゼ釣りに連れてきた時のようにほっと胸をなでおろしたのでした。


今でも、夜釣りの楽しさを手っ取り早く知ってもらうときにお勧めすべきは電気ウキ釣りだと思っています。赤い点が前触れもなく水中に吸い込まれる瞬間はえも言われぬ興奮があります。


一方でびめしはというと、ヴァンキッシュおじさんに感化されて始めたアジングタックル(超軽量のルアータックルでアジを狙う釣り)で淡々とアジを掛けていました。


ぴちぴちと地面で跳ねる小鯵をおっかなびっくり手で掴みながら「アジってルアーでも釣れるんですか」と、びめしを見る宮田。


「そうそう、まあめっちゃ難しいみたいよ」と僕。


「へー、まあ僕は電気ウキでいいですわ」


その6年後、50cmの超巨大アジをアジングタックルで釣り上げるとはつゆ知らず、青年宮田は呟いたのでした。


(終わり)


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