小説「昨夜のカレー、明日のパン」が好きな話

 「昨夜のカレー、明日のパン(ゆうべのカレー、あしたのパン)」は脚本家の木皿泉さんが書いた小説処女作であり、2013年に発行された小説であり、そして私が好きな小説TOP3に入る素晴らしい小説である。

 簡単に内容を紹介すると、21歳の時に夫の一樹を亡くしたテツコと、一樹の父であるギフが一緒に暮らしながら ”家族” ”暮らし” ”人生” を見つめていくそんな話である。

 私はこの小説を16歳の時に初めて手に取った。しかしその時は、物語に特別なものを感じず、完読すらできなかった。次に手に取ったのは大学2年生19歳の時で、なんとなく家族というものが、一人ひとりの別の人間で成り立っていることを認識しはじめた時だったように思う。その時に、この本に本当の意味で出会ったんだと思う。それ以降は何度繰り返し読んだかわからないが、年を重ねていき、出会いや別れを繰り返すことが増えるたびに、この本を読むと新たな感情や気づきが生まれてくる。そんな特別な本である。

 家族というものが、一人一人の全く違う人間の集まりで成り立っているとわかると、何気ない日常が面白いものに見えてくる。テツコとギフは一樹が亡くなった今も一緒に生活しているし、テツコには岩井さんという恋人がいるが、ギフともなんともユニークな関わりが繰り広げられる。

 二人が住む寺山家の隣には笑えなくなった元客室乗務員のムムムが実家帰りをしてくる。そんな中、訳あって笑えなくなったムムムが地元で出会ったのは同級生のサカイ君で、逆にサカイ君は産婦人科医なのに顔面神経痛でにやけ顔が止まらず問題になって辞めたという。そこにバイクで事故って正座できなくなった寺の息子の深チンが登場し、上手くいかないと思われた人生が道を変えてどうも面白い方向へ動き始める。

 気象予報士の仕事をしながら穏やかに生活しているギフにも、若気の至りが原因で今は亡き妻夕子と衝突した過去もあるし、夕子自身にも抱えていた問題があったりする。一樹だって、突っ張ったまま母を亡くしたことに苦しんだし、父(ギフ)との二人暮らしに悩んだ過去もある。家族といったって一人ひとりの人生があり、生き方がある。そしてそこに人生を歩むにつれて出会う新たな誰かが加わることで、また違う道が開けたり、新しい世界見えてきたりする。そんな繰り返しで人生は進んでいく。そしてその人生に必要なのが ”暮らし” である。

 テツコと家族になろうと意気込む岩井さんはひょんなことから、テツコとギフの ”暮らし” を見ることになるが、それは一人で今から作ろうとするには到底遠すぎるもので、そこに住み続けてきた人たちが何年もかけて作ってきたものだということを思い知らされる。果たして、岩井さんは暮らしを手に入れることができるのか。テツコとギフはどう人生の次なる1ページを迎えるのか、読み進めていくと感動が広がる。

 人生について考えるとき、家族について考えるとき、そしてなんとなく自分の生き方に納得がいかないとき、この本を読んだらいいと思う。きっとあなたに当てはまる誰かがいると思うし、あなたをクスッと笑わせてくれる。そして、本のタイトル「昨夜のカレー、明日のパン」の意味が分かったとき、きっとあなたの心は温かくなって、やさしくなるだろう。私も人生の節目で何度もこの本に出会おうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?