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夢の話(3)


いつかみた夢


あまりに
いつまでもどこまでも
土色、緑、空の青が続くので、
もしかしてずっと同じ所をグルグル回っているだけなのでは…
と思い始めていた時、
初めて誰かのしゃがれた低い声がした。

「………………」

聞き取れない。

それっきりまたもとの騒がしい静寂に戻った。

バスは大きく左にカーブする。
そして、程なく止まった。

まだそこは相変わらず緑深い山の中だったし、
少し肌寒さを感じると言うことは、かなり高い所まで上がってきたのだろう。
時計は1時を指していた。こちらの時間で夕方の5時だ。
刺すような太陽が傾きかけながら、最後の瞬間まで山々の隅々を照らそうとしてくれている。

そこにあるべきバス停や雑踏は無かった。 
それでも私は当然のようにバスを降りた。
きっと、さっきのしゃがれ声は、もうすぐ目的地だと告げていたのだ。
結局降りたのは私1人だった。

目の前には削り出されたような岩肌の道が続いている。
舗装されているわけでもなく、かと言って自然に作り出されたものではない印象だ。

歩き始めてすぐ、何かの音がするのに気づいた。

かすかに聞こえる。

鳥の声かと思ったけれど、そうではないらしい。
音楽? 
音楽が聞こえる。
人々のざわめきも。

私はひたすら岩肌の道を歩く、音のする方へ。
すると、木立が途切れ
急に視界が開けた。

「はっっ!!?」
安い芝居のような声をあげた自分が恥ずかしくなり
思わず周りを見回す。

バロック調の豪華絢爛な巨大な空中ブランコ
剥製の動物が回る2段式のメリーゴーランド
蛇のように間を這う銀色のジェットコースター
空にかかるきらびやかなネオン
アコーディオンの音色
人々のざわめき…


それ自体が異様なのではなく、
そこにあることが異様で
足がすくんだ。

確かほんの2、3時間前まで
ナイジェリアの空港で土埃にまみれていなかったか?
あれからバスに乗って
街を出て、山に入り、
で、今ここで遊園地?
山の中で?

ぐわん、ぐわん、 と、
今にも落ちてきそうな勢いでブランコが回っている。子どもたちの甲高い声が響く。
その上下する天井には、レンブラント、ベラスケス、ミケランジェロのような絵画が所狭しと描き込まれ、さながらシスティーナ礼拝堂のようだった。
金の縁飾りはてらてらと光を放ち、中央の柱に貼られたミラーがその光と絵画とを集めて、豪華さと少しの悪趣味さを倍増させていた。

天を覆うほどの大きさに呆気に取られ見上げていると、
ぐらり。と、視界が歪んだ。
目眩? 倒れる?
私は身構えて目をしばたたかせた。

―違う。
私じゃない。
周りを見渡す。
何かが、違う。 さっきと違う。

私は違和感の正体を探した。
そして、あの天井が違うことに気づいた。

あれだ。あの少し悪趣味な豪華絢爛のバロック調の絵画があったはずの場所に、
風そよぐ草原と白馬の群れが現れ、
ブランコの回転に合わせて艶々としたたてがみをたなびかせながら走っている。
そのリアルな動きが一層異質さを際立たせていた。


プロジェクションマッピングだ


私はなぜか背筋が寒くなった。


間違い探しのように、あたりを見回す。
何も見つからないのを願いながら。
そして、あの空にかかるネオンさえも
等間隔で形を変えているのに気づいた。

ドローン。
LEDを搭載している。

背後から子どもたちの甲高い声が近づいてきた。
そして去っていく。

ジェットコースターは、ガタンガタン ゴーゴー言うから怖いのである。花やしきみたいにあえて狭い空間を通る事によって、あの最高時速42km/hが、
体感速度100km/h位に感じて、ヒィーヒィー言うのが楽しいのである。
だから、ジェットコースターが、あんなリニアみたいな無音のやつで
おまけに磁気浮上式でレールから浮いて爆速で走って良い訳が無い。


恐らくここは、全て最新のコンピューター制御で管理されている。

それと、
本当は最初から気づいていたけれど
どこかで、違うと思い込みたかった事。

ここにいる人たちのほとんどは白色人種だ。
そして少しの私たちのような黄色人種。

ここ、ナイジェリアだけどね。 確か。

一気に、不信感と不安感が込み上げてくる。
喉が焼けるように乾いていた。


ー続く


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