見出し画像

夢の話(6)



いつかみた夢


緑青ろくしょうに覆われた、
見るからに古そうな銅製だろう看板には、
バチバチの達筆で、“通商産業省”と描かれていた。

日本から遠く離れたナイジェリアの
首都からも遠く離れた山の中の
外界から乖離かいりした
白人種と少しの黄色人種しかいない一見バカでかいだけの悪趣味な遊園地。
そのフードコートの中の唯一古びた一角のメダルゲーム両替機の横に、
日本の国家公務員がこんな大層で古めかしい
お上の看板を掲げて
両替に来た日本人に話しかける仕事をしているとしたら、どんな効率の悪い仕事だろう。
この人、背任行為でもして
島流しならぬ、山送りになったのか?
もしくは新手のポン引きか?


「…………すか?」

通 商 産 業 省 。
聞いたことがあるような、無いような…

「………たんですか?」

そんな名前の省庁あったかな?
この人、経済産業省。って言ってたけど。

「……られたんですか?」

大体さ、柳瀬川って名前からして
東京なの?埼玉なの?
どっちだよ。
県境すぎるだろ。


「どうしてこちらに来られたんですか?」

抑揚の無い声に、思わず我に帰る。

この場合どういった答えが正解なのだろうか。
私自身も分からないのに。
宿泊するはずのホテルでバスを乗り過ごして、
気がついたら終点で、適当に歩いていたらたどり着きました。
的な答えが一番そつないだろう。

いやいや、
もしここが例えば、
国際テロ組織の拠点だとか
新興宗教の総本山だとか
めちゃくちゃ大きい阿片窟があるとか
だったらどうする?
ほら、何か、人は汚いものを隠す時に綺麗なもので覆うって言うじゃない。
古くからの冴えない土地を開発してわざと
光が丘とか、希望が丘とか名前を替えるところもあるって話だし。
こんなキラキラしたのを建てて、何かを隠してるんじゃないの?
このサラリーマンだって、
本当はどこの誰かなのか分からない。
だとしたら、正直に言うことによって危険な目に遭うかもしれない。
 

さぁ、どうする。


「バスで来ましたよ。で、あとはご存知の方法で。」

サラリーマンは表情を変えない。
私は嘘は言ってない。
答えの半分を相手に委ねる形にした。

本当は、whyを聞かれているのであって、
howを聞かれているわけではないのは十分わかっている。
“おいくつですか?” 
“156cmです。あ、今日はヒール履いてるから160あるかな♡”
お前に本当のことを言う必要ないだろ。的な時に使える、あのいなし方。



「ここは…何らかの方法でその存在を知り得る人しか…来れない場所です。」


サラリーマンは、訥々とつとつと話し始める。

ー続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?