夢の話(5)
いつかみた夢
振り向くと、そこには
サラリーマンがいた。
姿形を改めて形容する必要も無い位、よくいる日本のサラリーマンだった。
スーツを着て、リュックを前に抱えている。
満員電車なら褒められたマナーのサラリーマンだ。
手にはしわくちゃの白いビニール袋。
見慣れた緑の「7」の文字。
「これ、良かったら」
会釈をして、セブンイレブンの袋を受け取り、ひとまず床に広げる。
しゃがみ込んで、両替機がやっと吐き出し終わった溢れるコインを入れる。
頭を少し上げると、サラリーマンの靴が見えた。
意外にも丁寧にオイルが塗り込められたストレートチップ。ただ、異様につま先が長く、トランプのジョーカーが履いているあの靴のように反り上がっていた。
「埼玉県民だな」※¹
無意識に呟いてしまい、
慌ててコインをかき集める音と、嘘くさい咳払いで誤魔化した。
「それ、ゲーム用のコインなんですよ」
サラリーマンは、困った風な顔をして、もう1枚しわくちゃのビニール袋をくれた。
私のつぶやきは聞こえていなかったみたいだ。
「まあ、exchange。で間違いないんですけど、
ほら、下に“for MEDAL GAME”て書いてあるんですよね。」
さっき、ジャラジャラ落ちてくるコインを間抜けにTシャツの裾で受け止めながら、
“金のホイルで包んでるチョコレートみたいなお金だなぁ”
って思ったのは、ある意味正しかったみたいだ。
「そうなんですね。どうりで。量がね。」
「たまに間違える方、いますよ。」
サラリーマンは、気さくでゆったりとした話しぶりだったけれど、
それに反して、その黒目が忙しなく動いているのを、私は逸らした視界の端に捉えていた。
なぜここに居るのか?旅行者か?
そんな探りの眼差しだった。
まあ、私も聞かれた所で答えようがない。
なぜ私がここに来たのか、聞きたいのは私の方だ。
サラリーマンは、
壁に掲げている古い看板を指さしながら、
「経産省の柳瀬川と言います。」
と名乗った。
ー続く
※¹ 埼玉に住んでいた過去経験に基づく考察
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