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まぁ聞いてくださいよ

せっかくだから聞いてくださいよ、一駅ぶん。一駅ぶんもあればね、僕くらいになると想像だけでいくらでも世界を作り出すことができるんです。脳内にですよ。脳内って無限大にスペースがありますからね。ふと思いついたことをどんどん広げていけば、そこに新しい世界が出来上がるんですよ。

例えばですね、電車に乗ります。車内を見渡しますね。あーっと目を引く人がいます。それはもう誰でもいいんです。あ、この人だ!って思う人がいる。老若男女問わず、誰でもいい。多様性の時代ですからね、みんな違ってみんないいんです。じゃあここでは仮に女子高生としましょう。仮にね。

標的を定める。次の駅までたどり着くまでにぐわぁっと脳をフル回転させるんです。熱を帯びて、蕩けちゃって、耳から汁になって出てじゅるじゅる出てくるくらいには回転させていくんです。するとその子に物語が生まれていく。あぁ、この子は一体どんな子なんだろうって思い浮かべていくんです。

高校2年生。黒い髪は校則をしっかり守っている証だ。イヤホンからはOfficial髭男dismかな。英単語帳をめくっている。<atomosphere>とかを覚えているんじゃないかな。目線は単語帳だけど、どこか悲しそうな顔をしている。さて何があったのだろう。ここからどんどん世界は広がっていく。

彼女は隣の席の男の子が気になってて話すきっかけを探している。彼のカバンにぶら下がったヒゲダンのキーホルダーを見て、聞いてみようかなってLINE MUSICを起動してるんだ。Music FMなんて使わない!彼女はそういうのを1番嫌うタイプ。むしろ使ってる友達をちょっと嫌だなって思ってる。

あ、そうか。友達とのことかな。女の子だからね、色々あるよね。部活かなぁ。ちゃんと練習しない同級生のほうが大会でいい成績を取った。なんで自分はこうなんだ!って。練習に励むんだけど、スランプに陥ってるんだ。そりゃ単語なんて頭に入ってこないよ。恋も部活も一生懸命だからね。

こんなにも美しいこの子の世界。こっちが涙ぐんでしまう。君は青春の真っ只中、悩んでいる君のことを強く励ましたいんだ!そういう思いが沸き起こってきて止まらないんだ!だからね、だからね、校門の前で声をかけたんですよ。「ねぇ、君の哀しみを僕に見せてよ」って。そしたら通報でしょ。不思議な世の中ですよね!最近の若い奴は!


8:28、現行犯逮捕

#一駅ぶんのおどろき

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