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第1章 14.特許調査のPDCAサイクル

(1)PDCAサイクルの回し方

 特許調査では、計画(Plan)の段階が最重要であり、実行(Do)とCheck(評価)を、こまめに繰り返し、改善(Action)・調整(Adjust)することで調査の質と効率を上昇させる(図1.32)。計画を疎かにして、何を(What)、何のために(Why)探しているのかを考えることなく思考停止状態で実行(Do)をひたすら繰り返すことは生産性の観点から好ましくない。

 筆者は、計画(Plan)に50%の労力(質的)を注ぎ、実行(Do)20%、評価(Check)15%、Action(改善)15%を目安にしている。計画段階で、何を探すのか、調査の課題や目的を明確にしなければ、適切な調査を実行も評価もできないはずである。

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図1.32 特許調査のPDCAサイクル

 調査の成否を決めると言っても過言ではない計画(Plan)がしっかりしていれば、技術革新が目覚ましい人工知能(AI)をパートナーとして活用して、文献のスクリーニングを効率的に実行(Do)することが可能になると考える(※1、※2)。

 そして、評価を適切に行って結果をフィードバックすることにより改善することで、人間が膨大な件数のスクリーニングを行うことが省力化できるようになるはずである。

 つまり、調査をすること自体は目的ではなく手段であり、調査によって解決すべき課題を解決して目的を達成するために、想像力(妄想力)を最大限に発揮し、調査の計画(Plan)を立てることが調査における人間の役割となっていくであろう。

(2)「技術」に対する理解とサーチャーとしての成長
  

 特許調査のスキルを支え、サーチャーとしての成長に必要なものは、「技術」に対する深い理解力であり、最新の技術を学び続けることを忘れてはならない。特許は、出願が公開されるまでタイムラグがあるため、技術分野(バイオ系やシステム系など)によっては、学術論文や実際のサービスから最新の情報を入手する。

 「技術」に対する敬意(リスペクト)、面白いと思う気持ち、知りたいと思う好奇心、深い愛情が特許調査をはじめとする知財業務には必要不可欠であると筆者は考えている。

 特許調査の初心者は、まずは社内マニュアル・資料や、特許調査の教科書の基本を忠実に学び、2~3年目までは優秀な先輩や見本となる事例を真似て型を身に着けることが必要である(守破離の「守」)。

 次に、基本となる型を身に着けてからは、自らの調査業務を分析することで改善・応用して自らのスタイルを確立していくことになる(「破」)。

 最終的には、調査業務にとらわれることなく、問題の本質を理解して課題の解決手段を提供できるコンサルタントのような姿となること(「離」)が理想と筆者は考えている。

 この「離」の段階に達すると、調査のスキル(ストラテジーの構築と、それを的確に実行する能力)は非常に強力な武器となる

 調査の結果から示唆を行うことで終わるのではなく、調査の結果から得られる「示唆」に基づいて、課題を解決する「行動」を実行したり、指揮をとったりするのである。

 そして、サーチャーとしての成長過程において、無効資料調査(第2章)や侵害予防調査(第3章)を実施するに際しては、調査業務にのみ携わるのではなく、他の知財業務にも携わることが望ましい

 具体的には、発明の発掘、クレーム案の作成、明細書案の作成といった出願業務、拒絶理由通知に対する応答案を検討する中間業務(権利化業務)、他社の権利化を阻止する無効化業務、自社製品が他社の権利に含まれるか否か(又は、他社製品が自社の権利に含まれるか否か)の侵害検討業務など、調査に関連する業務も併せて行うことで、調査業務における相乗効果が発揮される。

 逆もまた然りであり、無効資料調査を行うと、良い請求項の表現や上手な権利化テクニック、潰し難い特許とはどのようなものかを知ることができ、出願権利化業務に活かすことができる。

 侵害予防調査でクレームの解釈を行うことで、権利行使をしやすい特許とはどのような特許であるのか、他社が嫌がる出願の態様について知ることができる。

 自分は特許調査専門だからと言って他の業務を避けるのではなく、チャンスがあれば色々な業務に携わり視点を変えたり、視野を広げたりすることを推奨する

 筆者の知る範囲内ではあるが、優秀なサーチャーは、調査業務以外の知財業務を並行して担当していたり、担当していた経験があったりすることが多いように感じている。

 クレームの作成の思考過程など出願権利化業務の経験は、侵害予防調査において権利範囲を想定するに際して基礎となるであろうし、中間業務や無効化業務の経験は、無効資料調査における対比や進歩性の判断に役立つであろう。 

 巻末の参考文献で「2.特許調査」に列挙した文献を適宜参照されたい。

 なお、本書は、これらの先行技術文献の内容と差異が明確になるように心掛けており、重複する内容は基本的には省略し、特許調査の基本となるセオリーを中心に据え、侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ・考え方に的を絞って執筆されている

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※1:安藤俊幸、「機械学習を用いた効率的な特許調査方法」、Japio YEAR BOOK 2018、p.238-249(2018年11月)

※2:橋間渉、「プロサーチャーの育成とキャリアパス」、情報の科学と技術、Vol.69、No.1、p.10-15(2019年1月)


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