漂う水

実家に出戻ったけれど、まだ元の家を引き払えていない。今日は溜まっているだろう郵便物を引き取りに、3週間ぶりに元の家の玄関の前に立った。鍵穴に鍵を突っ込もうとしたら、頭の血が薄まりながら全て後ろに持っていかれる感覚を覚えた。それはかなり気持ち悪く、後ろに倒れそうになってしまった。後ろが気になったので振り向いたが誰もいなかった。気のせいかと思ってもう一度鍵穴に鍵で触れが、やっぱり頭の血が持っていかれた。

考えてみると、私はこの家に気持ちを残しすぎたのかもしれない。去年ここでものすごく泣いた。辛くて泣いた。悲しくて泣いた。悔しくて泣いた。洗濯機の前で、お風呂で、皿を洗いながら、ベッドで寝る前。涙が出てくる理由がわからなかった時期もあった。
そして、家の前は大きな道路だったから、私は排気ガスが入ってくるのが嫌であまり窓を開けなかったんだった。

ああ、あの溢れ出た水は、蒸発したあとどこにも逃げきらずにきっと、きっとまだあの部屋に漂っているのだ。そうして今日、鍵穴から私の体に入ってきて、血を薄めて持っていった。

次にあの家に住む人ごめんね。当の本人も気持ち悪くなる水を残してきてしまった。どうかファ◯リーズふりまくってごまかしてください。

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