私は遠くが見たかった。

私は疲れている。
今日もまた閉鎖された電車に乗り、仕事へ行く。
時間どうりにすら動けない電車。人が溢れたせいだ。
人が作り操るものすら、人によって乱れ制御できない。

今日、地下鉄の窓に映る車内と、透けて見えるゴツゴツとした灰色、そこにモネをみた。

私の目は良すぎた。
良すぎる目は遠くをよく写す代わりに、近くを見ることに不向きだった。
その目をもって、毎日小さな箱に乗り、目の前に人が立つことのストレスといったらなかった。

私は遠くが見たかった。

地下鉄の車窓から遠くを見ようとした。

するとそこには、青々とした草花、夏の日陰、赤い屋根があった。
ほう。そういうこともあるもんか。
そこをまたぼうっと眺めていると、そこに吹く風が私を川原へと運んだ。

ああ、私は知っている。あの傘をさしドレスを風に掴まれながら美しく立つ人を。
私はモネをみた。
正確には、モネの絵画をみた。 

どうやら、そういうこともあるようだ。


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