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政府の借金を国の借金と報じ続ける大手メディアの時代錯誤

国の借金というウソ

一昨日、8/10付のニュースで、また時事通信社が「国の借金、過去最高の1220兆円」と報じた。毎回のことなので呆れるしかないが、救いはネットでこういうニュースが流れると、コメント欄でネット民が総ツッコミしていることである。これが明らかな認識違いであることを以前より多くの人が理解し始めていることは喜ばしいことだが、まだ多くの人がこの間違った思い込みにハマってしまっているのでここで改めて説明しておきたい。

まず、これは国の借金ではなく、政府の借金である。政府=国ではない。政府+民間=国である。そして政府の国債を保有しているのは9割以上日本の民間であり、これは国を構成する政府と民間の間での貸し借りに過ぎない。例えて言うと、家の中でお父さんがお母さんに借りているようなものである。家全体として世界一の貯金を持っていれば話は全く別だ。そして、実際、日本という「国家」は世界一の貯金を持っている。

財務省が毎年発表している主要国の対外純資産というデータがある。これはその国が海外に貸している金額(対外資産)から、海外から借りている金額(対外負債)を差し引いた純資産額だ。最新のデータ(令和2年末)は下記の通り、日本は約357兆円という世界一の対外純資産を持っている。ここまで日本は31年間連続世界一だ。つまり、31年間連続で、日本という「国」は世界一の純資産(貯金)を持ち続けている。

→令和二年末 主要国の対外純資産(財務省)

世界一の貯金を持っている国の国民になぜその実感がないのか、実感どころかなぜこれだけ生活が苦しいのか?、それについては本稿ではなく、別稿で説明するとして、ここでは政府の借金が膨れた本当の理由について説明する。それは政府の無駄遣いのせいでも税収が足りないせいでもない。だから、いくら支出を削っても、税金を上げても絶対に解決しない。政府の借金の本当の原因は「現代のお金の発行のしくみ」、これに尽きる。


お金は誰がどうやって発行するか

現代のお金は、ほぼ世界共通だが、「信用創造」という仕組みで作られる。信用創造とは銀行が誰かにお金を貸す時に、借りる人の通帳に新たな預金を記帳して貸すという仕組みだ。銀行は皆さんの預金を集めて貸すところだが、いくら銀行がお金を貸しても誰の預金も決して減ることはない。にもかかわらず銀行がお金を貸せるのは、新しい預金(銀行の負債)を作って貸すからだ。同時に銀行は新たな貸出金をバランスシートの資産側に書き込む。そしてその新しい預金が世の中に回ることで、世の中のお金を増やす、つまりお金が発行されるという仕組みだ。要するに、皆さんがお金だと思っているものは、こうした借金が回り回って皆さんの預金になっているに過ぎず、その裏側にはほぼ同額の借金が存在し、その借金を全て返すとお金が消える。もちろんそんなことはありえないが、個々の借金は毎月返されるわけだから、その分のお金は毎月消えている。では、なぜお金が消えてしまわないのかというと、また他の誰かが新たな借金で新たなお金を作っているから、この巨大な自転車操業が回っているのだ。

ただ、この自転車操業には大きな問題がある。金利だ。必ず借りた以上に返さなければならない。借りた以上に返すためには、その分のお金が増えなければならないが、それも借金で作られるため、そこにも金利がつき、もっと多く返すためにはもっと多くのお金が必要だ。それも借金で作り、そこにも金利がつくから際限がない。永遠に追いつかない追いかけっこで、お金と借金が増え続けることになる。しかし、それが可能だと思うだろうか?

実際、どうなったかを見れば一目瞭然だ。下図は1980年から2020年までのマネーストックM2、国内銀行の民間への貸出残高、GDP、国債の残高をグラフ化したものだ。確かにお金は増え続けている。しかし、問題はそれは誰の借金なのか、ということ。バブル崩壊までは民間への貸出でお金が作られていた。それはマネーストックと貸出残高が平行して上がっていることでわかる。しかし、バブル崩壊以降、全く平行しなくなっている。これも当然だ。人口が増えなくなり、経済成長も鈍化すれば、借金を増やそうとしても民間だけでは限界がある。それでも誰かが借金してお金を増やし続けなければ、今までの借金に金利をつけて返せないので、誰かがそれをやり続けることになる。結局それは政府しかないのだ。政府だったらいくら借り続けても、一円も返さなくても借り続けることができるし、銀行も貸し続ける。そして正にそうなったということがグラフから見て取れる。緑の線が横ばいになると同時に国債の残高が急に増え、今や赤い線と青い線が平行している。つまりこの15年ほどは、政府の借金でお金が発行されてきたということだ。

図1


政府の借金でお金が増える仕組み

ちなみに政府の借金がお金を増やすメカニズムを説明すると、それはこういうことだ。日本の政府の一般会計予算の税収が60兆円だとして、60兆円の予算を組んだとすると、国民は60兆円最初に払い、60兆円を後で受け取るということだ。政府が雇っているのは民間人で、政府が使ったお金は公務員の給料や政府事業の事業費として民間に支払われる。つまり、税収=支出ということは、国民にしてみれば、払ったお金が戻ってくるだけで、お金は増えも減りもしない。しかし、もし政府が60兆円の税収しかないのに80兆円の予算を組んだらどうなるか。当然20兆円足りないので、政府が国債を発行することになる。それを銀行に買わせれば20兆円調達できるが、その20兆円はどこから来ているか?もちろん国民の預金である。しかし、その時に誰かの預金や現金が減るだろうか?否、誰のお金も減らない。ではなぜ銀行は20兆円政府に貸せるのか?それは銀行が作るからだ。これは信用創造と同じ。銀行は新たに20兆円を作って政府に貸す。したがって政府は、60兆円を税金で集め、国債で20兆円新たに銀行に作らせ、合わせて80兆円使うと、国民は最初に60兆円払って、後で80兆円受け取ることになる。差し引き20兆円皆さんのお金は増える。だから政府の借金と皆さんの預金残高は並行して増えるのだ。グラフを見てわかる通り、この15年ほど、明らかに平行に上がっている。その結果、2020年末時点で国債の残高は1000兆円、それに対して皆さんのお金は1100兆円だ。この状態で政府の借金を本気で返すと何が起きるか。

試しにやってみよう。仮に80兆円に増税したとする。それに対して予算を60兆円しか組まなければ、国民は最初に80兆円払って、後で60兆円しか受け取れないことになる。差し引き20兆円お金が減る。それはどこに行っているかというと、もちろん政府の黒字だ。気がついただろうか?つまりそういうことだ。政府の赤字=国民の黒字、逆も真なり、政府の黒字=国民の赤字、表裏一体なのだ。だから、政府の借金を返すために政府が黒字になるということは、国民がその分赤字になるということだ。毎年政府が20兆円の黒字で国債を返済していけば、50年後には国債を完済できるかもしれないが、そのために国民が毎年20兆円×50年間赤字になり続ける。つまり、1100兆円あるお金はほとんど消える。当たり前だ。借金でお金を作る現代のお金の発行の仕組みで、借金を返すとお金は消える。今やほとんど政府の借金でお金が発行されている状況で、本気で政府の借金を返すとほとんどのお金が消える。赤の線をゼロまで持っていくということは、青の線も道連れにゼロまで持っていくということだ。そんなことがあり得ると思うだろうか?あり得るはずがない。つまり、全くあり得ないことを大手マスコミや経済の専門家、ほとんどの政治家が主張しているのに等しい。冒頭の時事通信の報道も、明らかに危機感を煽るために「国の借金」とミスリードし、一人あたり992万円の借金と、いかにも国民が後で払わなければいけないような印象操作を行っているが、日本の政府の借金の9割以上は日本の民間が貸しているだから、これは国民の資産である。仮に国民が払ったとしても、992万円の資産から992万円の税金を払うのだから、ゼロ。もともとゼロからお金と借金を作っているのだから当たり前の話だ。

古い常識を捨てる

ただ、一つだけそうならない方法がある。つまり、政府の借金を全部消しても(赤の線をゼロまで持っていっても)、お金が消えない(青の線がゼロにならない)方法が。それは90年ぐらいまでのように、銀行の民間への貸出(緑の線)で十分お金が発行されていた時代は、赤の線(政府の借金)は下に留まっていられた。だからもう一度そうなれば、という話なのだが、もちろんそんなことはあり得ない。いつか必ず経済成長は止まり、人口も増えなくなる中、緑の線(銀行の民間への貸出)が無限に増え続けることはあり得ないからだ。その時には必ず赤い線(政府の借金)に取って代わられ、そうなったら最後、二度と元には戻れない。つまり、政府の借金は現代のお金の発行の仕組みの当然の帰結であり、不可逆である。今だに政府の借金を問題視する人は、恐らく今だにバブル以前の古い常識に囚われているのだろう。今となっては、政府の借金は二度と返せないこと、今の金融システムを続ける限り、むしろ増やし続けなければいけないことを早く多くの人が理解し、それを政策に反映しないと、間違った政策が特にこのコロナ禍による経済停滞の中、国民を苦しめ続けることなる。だから大手マスコミには一刻も早くこの古い思い込みを捨てていただいて、有益な情報発信をしていただけることを切に願う。

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