マッチに火を付けてフーッと息を吹きかける君

 その少女はカリカリに痩せていて麦茶を酒瓶をぐいっと飲むときのように飲んだ。茹だるように暑い夏、その姿は爽やかさすら感じた。常識や通例にとらわれない姿というのは、こちら側には清々しく映る。彼女はその野生み溢れる姿から男の子から人気があった。意外にも思われるかもしれないが、世の男性の中には意外とマゾヒストが紛れているらしい。しかし、彼女は特定の人は作らずに遊び呆けていた。時折り複数人で行為に及ぶそうだ。縄や手錠、目隠しなどを巧みに使い、相手を支配していく。彼らも気づいた頃には彼女の虜というわけだ。飽きたらポイっと捨てられるので捨てられないよう必死だ。

 彼女はほんとうになんてことのない見た目だ。なんというか特徴のない十人並みの顔。しかし艶のある低い声をしていた、少しハスキーで聴いていて落ち着く声。歌も上手くカナリアのように美しく歌い上げた。そして身のこなしが美しかった。全ての動作がゆっくりに見えるが、実際は他の人と同じスピードであった。そして古今東西さまざまな分野での知識が豊富であった。理知的な印象を持つ語り口は彼女をより魅力的にみせた。圧倒されるこちらにゆっくりと微笑みかける姿は一瞬女神かと錯覚するほどだ。わたしの取った統計では、彼女に恋に落ちるのに大体3日あれば事足りる。

 そんな彼女だが、最近叶わぬ恋をしていた。相手は化学の先生をしている鷹村先生だ。髭をたくわえていて中々ハンサムだ。30代半ばだろうか。他の先生方の中に混じると肌が艶々していて、かっこよさが際立つ。相手が先生では、モーションをかけるわけにもいかず、悶えながら片思いをしている訳だ。

 この頃ため息をついている彼女を目撃している。いつも少し不満げな表情をしている。あれだけ人を誑かしたのだから、ザマアミロと思わないこともないが、可哀想なので話を聞いてあげることにした。
「ねぇ、鷹村のこと今考えてんの。」
「そうだけど、なんで。」
「あんた、幸せそうじゃないから。」
「そんなのアンタに関係ないでしょ。ほっといてよ。好きで恋してんの。」
「でも、鷹村既婚者だよ。」
「知ってるよ。でも関係ないでしょ。」
「リナ、浮気と不倫は違うよ。娘さんもいるんだよ。」
「アンタって正しいだけでつまんない。ちょっと遊ぶくらいいいでしょう。本気じゃないもの。」
「わたしがこんなことを言うのはね、親が片親で苦労したあんたには、幸せになってもらいたいからなの。いい?鷹村との恋路の先に幸せはないんだからねっ。」少し大きな声で、目をうるうるさせながら彼女に伝えた。彼女も少し泣きそうだった。その放課後の後、彼女は火遊びもやめたし、鷹村先生への片思いもやめた。

 その代わり、わたしとよく放課後勉強するようになった。彼女も大学進学を目指すらしい。そして真面目で性格の優しい田口くんと付き合い始めた。田口くんはいいやつなので一安心した。とにかく、彼女にはいつも幸せでいて欲しい。そればかり願っている。

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