ピアス

 その夜私は友人ではあるが性行為もする中途半端な関係の男の家に泊まっていた。
 
 彼は現代アートみたいな変なピアスを付けていて、それは彼にあまり似合っていなかった。芸術とはなんなのかみたいな、彼は私の目をまっすぐみて真剣にそんな高尚な話をしていたが、その前衛的なピアスのせいでよく話が入ってこなかった。彼はなかなかハンサムな顔をしているのに、それでも打ち消せないくらい変なピアスだった。笑いをこらえつつ相槌を打つ。私の様子を怪訝に思ったのか、何?と不機嫌な顔できいてくる。なんでもないよと言うしかないのでそう言う。

 その日から彼のことを思い出すとそのピアスばかり思い出してしまうので、不思議と彼の家に寄り付かなくなっていた。ちょうどその頃恋人ができたのもある。そのピアスをしていなかったら、きっと彼とは付き合っていたのだろうなとぼんやり妄想する。そういう些細な事象でボタンの掛け違いは起きている。そしてまた私は彼の端正な横顔より、変なピアスの方を思い出してるのであった。

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