ケロイド乙女
キョウコの左頬には爛れた甘い柔らかいケロイドができた。戦火を浴びて生きているだけでも幸運だが、乙女の顔にこれだけの傷ができては、きっともう結婚はできないのだろう。そのことについて未練はないが、生涯の伴侶がいない人生というのは心細い感じがする。内職と家事と実家の和菓子店の店番をする淡々とした毎日を過ごす。
子どもに指を差され、化け物と言われることもあった。大概そばにいる母親に「やめなさいっ」と怒られている。もう慣れてしまった。傷ができる前は町で評判の美人と呼ばれていた。男の子にも持て囃され、楽しい人生だった。生まれ変わったように世界が180度変わりみえた世界は灰色だった。
それでも毎日を積み上げていく。昔父が買ってくれた絵本の、王子さまが迎えに来てくれることを願いながら、涙を伝わせ、それを人に見せず、生きている。”いつかひとときでもいいから、私を女にしてください” それが御仏への願いだった。それでも私は生きる。
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