運命じゃない人と過ごす時間は無駄なのかな

初めて彼に会った時,なぜか懐かしさを感じた。この人のことをずっと探していたんだと気づいた。そんなこと考えたことなかったのに。

偶然が重なった。同じ日にお弁当を忘れて,同じ日に同じような服を着てた。同じバンドが好きで,話が止まらなかった。もう思い出さないようにしているけど,反射でもこれくらいは書ける。まあ普通か。

彼の声は少し鼻にかかっていて,一般的に言う低くて落ち着く声とは遠いけど,それでも彼の声に私はなぜか安心してしまった。

他人の匂いが苦手なのに,彼の匂いを感じた時,なんか自然と受け入れていた。

タイプと違うのに惹かれる?ううん,どタイプだったよ。一発で刺してきたんだもん。

なんでかわからないけど,彼と話しているとずっと笑っている。いつから笑っているのかわからない。だけどずっと笑ってしまう。思い出す彼もずっと笑っている。

一緒にいるときの自分が好き。一緒にいれば自分は正解でいられるとすら思えた。

ずっと一緒にいられたらどんなにいいか。そんなこと考えていた。

だけど一緒にいて楽しいのに,なぜか彼のことを考えるとすごく嬉しくて満たされる時と,一人で辛くなってしまう時の差が激しかった。

それももう遠い昔の話。

「共有からLINE開いて〇〇番目が運命の人」だなんて,10番目にすら彼の名前は出てこない。

1番上にある今彼の名前。愛おしいなんて思ったことない。一緒にいて楽なのに,なぜか彼は特別じゃないんだ。

「一度離れる」

運命の人の特徴として誰かが挙げていた。

何回も私たちは離れて,それでもまた再会してきた。また素直になれなかった。だけどやっぱりあの彼とは,何かのつながりを感じてしまう。

今の彼は運命の人じゃないと思ってしまう。何も感じない。ただ,タイミングが合ったんだ。そして,タイミングが合う人だった。

このnoteを,今の彼氏に見られたことがある。それから何もかもを変えて,見つからないようにした。

あの彼のことを今でも好きなわけじゃない。今すぐどうするとか,そういうものでもない。

今の彼と一緒にいて,今は良い。

だけどときめかないし,私の今までの感情の尺度で考えると,好きの範囲ではない。運命を感じたこともない。

「この人と結婚するんだって直感で感じるとか言うじゃん。あれ感じてみたい」

あるとき今彼は簡単に言った。

だから私も無視した。けど,やっぱり少し複雑な気持ちが生まれかけた。それを別の記憶が追い抜いた。

あの春だった。そしてその少し前の冬のことだった。

初めてあの彼を見たとき。春風が吹いた。桜が舞った。光が差した。本当にそんな感じがした。普通にしているはずなのに,彼のことしか見られない。彼から目線を外せない。必死に机に視線を戻しても,彼の姿が目に映る。彼を意識している。

どうしてだろう。ずっと探していた気がする。どこかで会ったことがある気がする。そしたらいつ?どこで?思い出せない。というか忘れないはずだ。初めて会うんだ。でもわからない。彼の記憶が一切ないのに,私が彼だと叫んでいる。

バド部?だよね?

確信はないけど,彼の服装,雰囲気でそう言ってみた。

うん。卓球部の子だよね?

あ,知ってるんだ,私のこと。見たことあったんだ。

きっと彼にとって私は普通の人。だからきっと,私にとっての運命だっただけで,ふたりの運命ではない。

だけどね,それでも今まで彼からもらった言葉は特別で,すごくキラキラしてたんだ。

「花束みたいな恋をした,くらい趣味合うね」を,私はなんて訳そうか考えていた。そのままの意味なのか。夏目漱石だったら,大胆に捉えられたのだろうか。

好きだって意味だったら。運命みたいだねって意味だったら。

あの映画にはなかったハッピーエンドも,きっと描けるんじゃないか。あの映画を,自分たちの話にできるんじゃないか。

彼との話は空想で終わる。

今彼の話は事実だけで終わる。

鬱っぽくなってから,心が動かなくなった。

だけど,前に友達と飲んでいたら,あるサラリーマンがお酒をくれた時,そのうちの一人と目があって,アイコンタクトを取ったことがあった。こんな大人いるんだなって思った。あの彼みたいな,純粋な少年みたいな眼差しをしていた。ぬるい風が吹きかけた。

ああ,まだこんな人がいるんだ,この世界には。

だから前に歩き出そうと思った。進もうと思った。

帰る場所として今彼といるのか。前に進むために彼と別れるのか。

今はまだ,どっちが良いのかわからなくてそのままでいる。

別れてからすぐ何かをしようって訳でもないし,別れたい何かがある訳でもない。

ただ,彼ではない。それだけなんだ。

こうして今彼と過ごす時間は無駄なのか。若さの無駄遣いなのか。幼かったと未来の私は許せるのだろうか。少しずつ後悔に変わる。あの彼の手を,あの時しっかり掴んでいたら。ぎゅっと握り締め,大丈夫って言えてたら。距離も時間も大丈夫。ふたりだったら大丈夫。何度離れてもまた会ったんだから。ずっと今でも同じでいたんだから。ずっと好きだったから。君のことをずっと探していたんだから。

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