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リジェネラティブビジネスデザインを実践者から学ぶ。循環型おむつ「DYCLE」

2021年6月からスタートした「TSUNAGU FASHION LABORATORY」。「個人の心の在り方からファッションの世界を再生する」をテーマに、毎月多彩なナビゲーターによるワークショップを行っています。

近年国内外で環境問題が注目される中で、その問題解決のアプローチの一つとして「リジェネレーション(regeneration)」という概念があります。特に農業分野において「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」と言われることが多く、土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指す農業を意味します。土壌が健康であるほど多くの炭素を吸収(隔離)するため、リジェネラティブ農業は気候変動を抑制するのに有用な手法だと考えられているそうです。(IDEAS FOR GOOD「リジェネラティブ農業とは・意味」より)

こうした「リジェネラティブ」という概念は、ビジネス領域においても見られるようになってきました。下記の IDEAS FOR GOODの記事によると、サステナビリティは、自然を持続可能な形で管理・開発していくという発想に基いており、そこには「人間と自然を分ける」前提がある一方で、リジェネレーションは、人間の活動を通じて環境を破壊し、社会に分断を生むのではなく、環境を再生し、コミュニティを再生していく概念であると説明されています。また、人間を「自然の一部」として捉え、システムの内側から共に繁栄できるよう働きかけていく点がサステナビリティとは対照的だと指摘されています。(IDEAS FOR GOOD「サステナビリティの先にある概念「リジェネレーション」とは?【ウェルビーイング特集 #6 再生】」より)

それでは、具体的にビジネス領域においてどのようにリジェネレーションを実践できるのでしょうか。今回は、土に還るおむつを生産・販売する「DYCLE」創業者 松坂愛友美さんから、堆肥化できるおむつライナーの誕生背景や、地域ビジネスにつなげていく循環型かつリジェネラティブなビジネスモデルを学びました。

土に還るおむつライナー「DYCLE」のストーリー

ドイツ・ベルリンで誕生した「DYCLE」は、生分解性のおむつの中敷きを製造し、堆肥化する取り組みを行なっています。では、いかにして松坂さんたちは自然と共生するビジネスモデルを構築してきたのでしょうか。冒頭は、松坂さんからDYCLEをスタートした背景とそのエッセンスについてお話がありました。

まず松坂さんから、世界的な起業家で経済学者のグンター・パウリ氏が提唱した「ブルーエコノミー」の中で、特に「DYCLE」に影響を与えた3つの点が紹介されました。

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(松坂さんのスライド資料より)

1つ目は、自然界の5つの王国とともにビジネスを行うということ。この「5つの王国」とは、日本語では「五界」とも呼ばれ、アメリカの生物学者 リン・マーグリス氏が提唱した考え方です。地球は5つ要素(バクテリア、プロテスタ(藻類)、きのこ類、植物、動物)で構成され、それぞれ分解できず複雑なものであることが示されています。松坂さんは、ビジネスをする場合も同じく、この「住人」の全てがコラボレーションしていくことが大切だと話します。

芋づる式に新しいものが生まれる「システミックデザイン」

2つ目は、システミックデザイン。これは近年様々な場面で目にする「システム・シンキング」ではなく、「1つの生産活動でできた製品やエネルギー、ゴミなどは、すべて次のシステムの資源になるべきだ」というトリノ工業大学の先生の話が元になっているそうです。

具体的に、DYCLEのおむつライナーの例があげられました。まず、子どもが便をしたおむつライナーは回収ボックスに入れられ、他の「王国の住人」である微生物入りの炭の粉などの力も借りて発酵が始まります。その後、ミミズコンポストなどの過程を経て、テラプレタという安全な堆肥になった後は有機農家などに運ばれ、その堆肥を使って果物などが育てられます。そこからジャムやジュース、離乳食を作ることができ、地域のビジネスが育つという流れが生み出されます。また、育った木から剪定した枝で炭を作ることもでき、さらには堆肥で作られたオーガニック食材を毎日食べることで母親が薬を飲まずに、健康的な母乳を子どもへ与えることができます。このように、システミックデザインに基づいて生まれた「システミックフロー」という流れは、芋づる式に複数の生態系が利益を得て、複数の生産物を作ることができるのです。

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(松坂さんのスライド資料より)

様々な社会問題を生む「リニアフロー」のものづくり

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(松坂さんのスライド資料より)

次に、ワークショップの参加者とともにおむつを解体する体験をしました。開けてみると吸収剤のポリマーの粉やプラスチックの部分が多かったりと、様々な気づきがありました。

では、今回解体したような市販のおむつは、どのように作られているのでしょうか。実は、一般的なおむつは「リニアフロー」という一方通行の流れで生み出されたもの。使い捨ての紙おむつの素材は大体がプラスチック素材であり、健康や環境に悪く、自然界に還すのが難しいと言われているそうです。

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(松坂さんのスライド資料より)

DYCLEは、できるだけベルリン近隣の素材を使っておむつを製造し、それらを堆肥化しようと試みました。リニアフローでは物を生産して消費するだけですが、システミックフローは多種多様なものが派生的に作られます。実は、その点が「サーキュラーエコノミー」との違いだと松坂さんは話します。コンポスタブルな素材に変えるだけでは全体のシステムを変えること自体には貢献せず、根本的な解決にはならない。だからこそ、派生的にものを生み出すシステミックフローのように、次のステップへと進む必要があるといいます。

地域住人とコラボレーションして生まれたおむつ

自然界では、真に「サーキュラー」なものは存在せず、芋づる式に複数のものがどんどん生まれていきます。その背景には、5つの王国の住人によるコラボレーションが存在する。ということは、リジェネラティブビジネスを目指す上で、最終的に自然からインスピレーションを得た方法でビジネスモデルを構築する必要があります。「DYCLE」の場合は、100%堆肥化するおむつを作り、それらを堆肥化して果物や加工した製品を販売するというように、多方面へと展開していけるようなモデルを作っています。これは、DYCLEの流れに参加する全ての生態系と環境がWinWinの関係を築いていく循環です。

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(松坂さんのスライド資料より)

自分の周りにあるものから始めてみる

このような大きなシステムを作ることはハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、まずはいったん「自分が今持っているものは何か」を考えてみることが大切だと松坂さんは話します。自分の特技や住んでいる街の特徴、そして自分のネットワークや経験を思い返すと、想像以上に自分の周りにはたくさん存在することに気がつきます。

松坂さん自身、ブルーエコノミーを勉強し始めた時に考えたことは、「生ゴミで何かできないか」ということでした。その中で、グンター・パウリ氏のアドバイスもあり、自身のスキルや経験も入れて考えたところ、自分にはアートプロジェクトの中で培った安全な人糞堆肥を作るスキルがあるということに気づいたそうです。また、コミュニティガーデンのつながりもあり、そこから堆肥を作ることになったといいます。自分自身が女性ということもあり、赤ちゃんのおむつに親近感があったことで、実際におむつを堆肥化にすることになったそうです。

2014年には、1年かけてありとあらゆる「エコ」と呼ばれるおむつを買い、使用後に発酵させて実験した松坂さん。そうした実験を続けて分かったのは、堆肥化できるおむつが市場にないということだったそうです。その後、チームを作ってワークショップやハッカソンを実施し、多種多様な人々とともに開発し、3年目に堆肥化できるおむつライナーを製造する流れになりました。

たくさんの人・生き物の希望とともに

そういったチームでの共同開発を通して、たくさんの人や生き物の希望も取り込むことが大切だと松坂さんは話します。実際に、使用した人がどのような生活を送ってほしいか、そして自分の夢や願いも発信していったといいます。具体的に、松坂さんたちは「ビジョンマップ」を作り、それぞれ「好きなこと」の写真を貼っていきました。そうすると、おむつを作ることが目的ではなく、いろいろな人たちが環境に良い方法で子どもたちが安心して暮らせる社会を作りたいという大きな願いが見えてきたといいます。

こうしたビジョンを人に共有すると、それぞれ共感して「もっと自分もこうしたい!」いう波が生まれる。まさに「ノアの箱舟」のように、いろんな人が乗って一つの船になるような感覚があると松坂さんは話しました。

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(松坂さんのスライド資料より)

自然が多く、伝統も多い日本。身の回りにあるものを見ていくと、地元に根付く文化に気がつきます。そしてその伝統を見ていくと、次の社会を築いていく中で良い「先生」になっていく。生まれた国、住んでいる町から学びながら、毎日を楽しんで次のステップにつなげていってほしいと松坂さんは話しました。

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「土」を大切にしながら、システミックフローという芋づる式に派生していくマクロな世界観をつくり出すDYCLEは、まさに環境を再生する「リジェネラティブ」な取り組みだと感じました。

また、このビジネスに従事する人たちだけで閉じるのではなく、様々な人たちに向けてオープンかつクリエイティブに一緒に世界をつくっていくという感覚の大切さを呼び起こされました。

サステナビリティやサーキュラーエコノミーなど環境や人々に優しい社会づくりが模索される中、初めからマクロな視点で社会をつくっていこうとするのではなく、自分の周りにあるもの、そして住んでいる地域に焦点を当て、そこから何かを生み出していくという視点が必要だと感じます。

筆者自身も、自分に何ができるかをもう一度振り返りながら、次のステップを探っていきたいと思います!


Written by Mari Kozawa


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