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人間と生物の関係性を再考する。「WILD SILK MUSEUM」インタビュー

近年様々な場面でサステナビリティやエシカルといった言葉を目にするようになりました。TSUNAGUでも、徳島県の藍染めとコラボレーションしたり、草木染めのワークショップを行ったりなど、日本の伝統技術に注目した「エシカルファッション」の形を模索してきました。

地域の伝統に注目していくと、自ずとその土地の風土や文化の形に気がつくことも。その中でも筆者の関心があるのが、絹や綿、麻といった天然素材です。こうした素材は、着用する私たちの身体に優しい機能性の側面だけでなく、長い時間をかけて地域の風土に根ざした形で展開されてきた文化の側面もあると感じます。今回の記事では「絹」に注目し、東京都・清澄白河で活動されている「WILD SILK MUSEUM」へインタビューさせていただきました。

蚕の魅力を発信する「WILD SILK MUSEUM」

ワイルドシルク」とは、家蚕(かさん)とも呼ばれるカイコ以外の絹糸昆虫が産出するシルクのこと。また、家蚕は人間により改良され飼育されているものを指しますが、ワイルドシルク(野蚕)は、野生のものと分類されているそうです。

5年前にスタートしたWILD SILK MUSEUMでは、様々な絹糸昆虫とそのシルクについて紹介しており、絹が私たちの身近な素材であることを体感できる空間を作られています。

具体的に、日本野蚕学会の協力によりミュージアム内では多くの絹糸昆虫の繭や糸、布が展示されており、江東区内で育てているエリサン (ヤママユガ科)の生態を見たり、繭の糸紡ぎ体験をしたりすることができます。

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衣食住につながる蚕のライフサイクル

WILD SILK MUSEUMを運営する坪川さんは、以前仕事で絹の生地の縫製をしていました。ある時絹の生地のハギレで作った枕カバーによって肌トラブルが軽減されたことをきっかけに、実際に日本野蚕学会に入り絹の調査を始めたそうです。

映像作品として蚕のライフサイクルを記録する中で、数ヶ月に渡る一世代のライフサイクルだけの撮影ではうまく全体像を掴めないと感じた坪川さんは、次世代のライフサイクルを追っていくうちに養蚕を始めました。

絹は衣類の素材というイメージが強いですが、実際には衣食住の様々な領域で活用されています。例えば、蚕が紫外線から繭を守るために生み出したUVカットの性質から日焼け止めクリームを作ったり、蚕のフンを漢方薬としてお茶にしたりと、蚕が生み出すもののほぼ全てを余すところなく私たちの暮らしに繋げていくことができるそうです。

人間と生物の関係性の再考

WILD SILK MUSEUMでは様々な種類の繭玉も展示しており、野蚕と家蚕による形状や大きさの違いに筆者自身驚きました。

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 (左が野蚕、右が家蚕の繭玉)

野蚕において、脱皮した成虫は繭を突き破って飛び立つので、糸にする際は残った繭を茹でほぐしながら紡いでいきます。そうした野蚕の糸を織って作られた布は、一瞬綿だと思うほど素朴でほっとする質感でした。

普段「絹」と聞いてイメージするような艶のある絹糸は、人間の手で育てられてきた家蚕によって作られます。その歴史は古く、およそ5000年かけて質が良くたくさんの糸を生み出せるように蚕を育ててきたそうです。そうした人間と生物との長い関わりの中で、蚕の成長や養蚕における除災の祈願、蚕の鎮魂慰霊など、人々の養蚕信仰にも繋がっていきました。

このように、絹という素材は蚕と人間の営みが織り合わされて作られるものだということに気付き、筆者自身心動かされました。同時に、絹の文化に触れることで、あらためて人間と生物の関係性を見つめ直すきっかけになるのではないかと思いました。

養蚕、絹の文化をどのように未来へ繋げていくか。今すぐにその答えを出すことは難しいですが、まずは今一度歴史を振り返りながら人間と生物の関係性を考え直していくことが大切なのではないでしょうか。

数千年の時間をかけて今も紡がれる絹の文化。「素材」という視点を超え、蚕という生き物と人間の関係性にも注目することで、よりホリスティックに日本文化と「サステナビリティ」を捉えることができるはずです。

引き続き、TSUNAGUでも探究していきたいと思います!


【参考】

「WILD SILK MUSEUM」ホームページ

The Dainippon Silk Foundation ホームページ


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