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私の顔はお得な顔
「つむぐちゃん、怒ってる?」
昔からよく聞かれる。
そのデリカシーのない質問どうなんだ。
本当に怒ってたらどう返すの。
「笑顔が足りない」だの「暗い」だの、上司からの説教にももううんざり。
そもそもあんたが面白いと思って語っているその武勇伝がしょうもないねん。笑わなあかんこっちの身にもなってくれ。
怒ってはいない。
いないんだけど、あんまり言われるとほんとにカチンとくることもある。
怒り顔なのだ。
一重瞼で黒目は小さいし、頬の稼働域が狭いのかあんまり口角が上がらない。声のトーンをあげたり、メイクを研究したり工夫はしている。
接客の仕事は特に笑顔が命。集中すると怖い顔になりやすいので、商品の包装中やお金のやりとりをしているときも、「やわらかい表情」と頭の中で唱えるクセをつけている。
もともと笑い顔の人ならこんな努力はしなくていいのに。「損な顔だなあ」と思っていた。
「私なんか笑い顔やから、いつも店長に怒られるで」
同じ接客業の友達同士で愚痴っていると、思いもよらぬ話に目を瞬いた。彼女は下がり眉で、いつもきゅっと口角が上がって、喋り方もおっとりして、話しているとこちらの力が抜けるような愛嬌のある顔。まさに接客向きじゃないか。それなのにどうして。
「店長が大事な話をしているとき、私は真剣に聞いてるんやけど、どうも笑っているように見えるらしくて。なんで笑ってんねん、ってめっちゃ怒られるねん」
怒られながら、眉を寄せてみたり、目に力を入れてみたり、どうやったら真剣な顔になるか必死で、ますます話が入ってこなくなるらしい。そんな調子だと店長の怒りがヒートアップするのも想像に難くない。笑い顔の人にも苦労はあるんだなあ。
思い返せば怒り顔だからなのか、しつこく叱られた経験がない。なんなら最後は励まさせる。スキンシップ代わりの指摘だったのにそんなに反省されるとは、と戸惑うのかもしれない。
そう考えると私だけが格別損をしているわけじゃなさそうだ。そりゃあもっと美人に生まれたかったけれど、〝感情の誤解〟という面ではそこそか平等なのかなと思う。
だって、コロコロと感情を切り替える人は「さっきまで落ち込んでたのにもう笑ってる、薄情なやつめ」と反感を買うかもしれないし、ポーカーフェイスの人は「何考えてんのか分からないから怖い」と敬遠されるかもしれない。
どんな顔に生まれ変わってもどうせ悩むし、どこの上司も面倒なものなのだ。いっそこの顔の便利なところに目を向けて「お得な顔だ」と信じて強く生きていこうと思う。
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