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かっぱのえびせん②


(小説)


「月島さん、アタシの"がびょびょ〜ん"の時の顔、
 こんな感じで合ってる?」

そう言って舞台袖の薄暗灯の中、
舌を出し白目を剥き、全力で妙顔を披露する、
普段は糞が付く程真面目に
PTAの会計を務める蜂谷さん。

緊張感と変顔とのコントラストに
思わず吹き出した後、
「合ってます合ってます。
気にせず自由にやってください。」
と背中をポンと押した。



松風保育園のいわゆる"発表会"
「みんなDEステージ」は年2回。
そのうち1回にはなぜか、逆に私たちPTA役員が
園児と保護者に向け
出し物を披露する企画が含まれている。

娘が年中となり、PTAに選ばれてしまった
私が、
歌でもダンスでもなく集団コントの
案を出したのには、
我ながら自分に驚いた。

「コントって?あのお笑いの?
テレビの芸人さんのネタをやるってこと?」

「いえ、子ども向けだから、もっと簡単な…
そら組さん今年『シンデレラ』やりますよね?
だから、ベースはシンデレラで、それに
お笑いを足していったら、さっき見たばっかり
やから子どもたちも楽しめるかも。」

「そんなの…誰が?」

「台本は、私作ります」


私はなにを言ってるんだ。
現役時代も、ネタは相方が書いてたじゃないか。
ママ友たちにも、ずっと正体を隠してきた
じゃないか。


「今までネタ書いてくれて、こんな私と
コンビ続けてくれてありがとう。」

「月ちゃんそれはもう嫌味やねん。
あんたの芸人人生、あたしの書いたネタが終わらせてもうた。」

「ちがう、そういうつもりじゃ…」

「あんたもな、諦める前に1回でも
ネタ書いたらどやったんや!?あたしは
まだ…!」

「…ごめん。」

「まだ…月ちゃんとやりたいよ、お笑い。
ごめんって言わせて、ごめんな。」


私の処女作、コント・シンデレラは、
大爆笑、大拍手で終了した。

汗だくになった、大ボケ魔女の蜂谷は
「月島さん!お笑い取るってこんなに
気持ちいいんやね!
月島さんのおかげで目覚めそうやわ!
吉本の学校にでも通おうかしら!」

とはしゃぐ始末。

でもわかる。
この快感は、他の何にも変えられない
残酷な夢の甘蜜だ。



出番を終えた私を、
旦那が娘と迎える。

「ママおもしろかった!
いちばんおもしろかった!
おもしろかったぁ〜!」

「ウソ、どうせ寝てたんでしょ?」

「そんな事ないよ!ずっと大笑いしてたし、
オレが、これママが全部作ったんだよ!
って言ったら感動してたよ!
ママすごすぎる!って。」



(ねえ、私だってネタ書いてみたよ。

娘がさ、いちばんおもしろかったって。)


にしても、蜂谷さんのがびょびょ〜ん
だけは酷かったな。
来年またやるとしたら、あの人は端役にしよう。


…③につづく。

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