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介護報酬改定の舞台裏、そして取材の実態とは

共同通信社 特別報道室 編集委員
市川 亨

社会保障分野を10数年取材している記者

2024年4月の「トリプル改定」を前に、
霞が関・永田町で報酬改定がどのように決まり、
メディアはどう取材しているのかをお伝えします。


共同通信って?

読者の皆さま、初めまして。共同通信・特別報道室の市川亨と申します。今回、初めてこちらにコラムを書くことになりました。
「『共同通信』と言われても、よく知らない」という方も多いと思います。大手マスコミの一つで、新聞やテレビ・ラジオ、インターネットにニュースを配信している一般社団法人です。
例えば、地方紙に東京の政治や経済のニュース、他の県で起きた事件の記事が載っていますが、それらはほとんどの場合、共同通信の記事です。表示されないので気付かれませんが、実は毎日・日経・産経新聞にも紛れ込んでいます。
1600人ぐらいの社員がいて、全都道府県に支局があります。海外にも41カ所の支局があり、日本の報道機関としては最も多いです。
私は1996年に入社して、現在50歳。地方支局やロンドン支局での勤務を経験し、医療や介護、障害福祉など社会保障分野の取材を10数年しています。


来年は「トリプル改定」

 さて、皆さんご存知の通り、介護施設や事業所に支払われる介護報酬は3年に1回、改定されます。次の改定は2024年4月。医療機関への診療報酬、障害福祉の報酬も改定される6年に1度の「トリプル改定」の年に当たります。
私は前回2018年のトリプル改定のとき、共同通信の厚生労働省担当キャップでした。その経験を踏まえ、中央省庁や政治の世界で報酬改定がどうやって決まるのか、そして記者はそれをどう取材しているのか、舞台裏を紹介したいと思います。

介護報酬改定率の推移


「事前レク」の内容をキャッチして「抜く」

報酬改定の注目ポイントは大きく2つ。①全体の改定率がどうなるか②単価や加算がどう割り振られるか―です。全体の改定率が決まるのは、政府の予算案が編成される12月。厚労省、財務省、自民・公明両党、首相官邸を巻き込んで政治的に決まります。全体の改定率が決まると、個別の報酬にどう割り振るかが、厚労省の審議会「介護給付費分科会」の議論を経て1~2月に決まる―というスケジュールです。①と②はリンクはしていますが、決まり方は全然違います。
改定の議論が本格化するのは夏以降。介護給付費分科会で「通所介護」「訪問介護」「居宅介護支援」といったテーマごとに議論が始まります。10~11月に「改定の基本方針」をまとめ、テーマごとに2巡目の議論に。年を越し、だいたい1月下旬に全体像が決まります。
厚労省担当の記者は分科会を傍聴取材して記事を書きますが、実は取材で重要なのは分科会当日ではなく、その前。分科会は特養ホームや老人保健施設などの全国団体のほか、日本医師会(日医)や自治体、経済界の代表に学者らを加えた20人余りで構成されています。厚労省は根回しのため各委員に数日前に「事前レク」を行います。記者はいち早くその内容をキャッチして、分科会の前に「厚労省は報酬改定でこういう方針を固めた」と報じるのです。ここは各メディアの間で「抜いた」「抜かれた」という競争になります。
事前レクの内容をキャッチするのは、競争だけが理由ではありません。「事前レクの資料では厚労省はこう書いていたのに、有力団体の意見を受けて、分科会当日は表現が変わっていた」ということも時々あります。政策決定のプロセスを検証するのにも役立つのです。

厚労省の介護給付費分科会と、診療報酬の諮問機関である中央社会保険医療協 議会の合同会議=2017年3月

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