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福祉・医療制度改革ズームイン!(1) ~科学的介護が「やらされLIFE」と呼ばれるワケ~

ニッセイ基礎研究所主任研究員
三原岳

2022年4月から当ウエブサイトで、「ケアマネジャーは誰の味方か?」というタイトルで毎月、コラムを掲載させて頂いていましたが、テーマがケアマネジメントやケアマネジャーの在り方から移って来たので、今回から「福祉・医療制度改革ズームイン!」というタイトルに変えさせて頂きます。今後、タイトルに相応しい内容にしたいと思います(掲載も隔月に変わります)。

リニューアル版の第1回では、データの活用を目指す「科学的介護」を批判的に考察します。


科学的介護の経緯

通称、LIFEと呼ばれる科学的介護は現在、主に施設系サービスで導入されているため、在宅のケアマネジャーの皆さんにとっては、少し縁遠い話かもしれません。しかし、厚生労働省は居宅介護支援に関しても、2021年度にモデル事業を実施しました。このため、次の2024年度報酬改定では、科学的介護が話題になるかもしれません。

実際、最近の事業所向けセミナーでは、業界団体の関係者やコンサルタントから「科学的介護は早く取り組んだ方がお得」「これからの事業所は科学的介護に取り組まないと、生き残れない」といった解説を多く耳にします。

さらに、流行のDX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション)を意識すれば、介護現場で毎日取得されている利用者のデータを含め、データやエビデンスを活用しつつ、業務全体を効率化する観点も重要です。

2022年12月に決まった社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会の意見書でも、エビデンスを蓄積するため、LIFEにデータを提出する事業所や施設の増加とか、収集するデータの充実などが言及されています。介護事業との情報をオンラインでやり取りするため、2024年4月から始まった「ケアプランデータ連携」も、DX化の一つとして位置付けられています。

しかし、天邪鬼の筆者は疑問も持っています。科学的介護に関する関係者の言説を聞いていると、介護保険制度を利用する「利用者の視点」とか、現場で働く「専門職の視点」がスッポリ抜けているように感じているためです。この点にこそ、現場で「やらされLIFE」と陰口(?!)を言われる理由が隠されていると感じています。

まず、科学的介護の経緯を振り返りましょう。図表1で示した通り、「科学的介護」という言葉が初めて浮上したのは2016年11月。塩崎恭久厚生労働相(当時)が「データ分析を通じた科学に裏付けられた介護に変えていきたい」と述べたのが始まりです。

図表1:科学的介護に関する主な経緯
出典:首相官邸、内閣府、厚生労働省ウエブサイトなどを基に作成

その後、厚生労働省は2017年10月、有識者で構成する「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」(以下、検討会)を発足させ、具体策を議論。最終的に、2021年度から「LIFE(科学的介護情報システム、Long-term care Information system For Evidence)」という名称で、データベースの統一化を図られました。

さらに、2021年4月からスタートした介護報酬改定でも、科学的介護の推進は主要な論点の一つとなり、手厚い加算が手当されました。例えば、新設された「科学的介護推進体制加算」では利用者ごとのADL(日常生活動作)、栄養状態、口腔機能、認知症の状態などについて、データをLIFEに提出するとともに、国からフィードバックされるデータを現場のケア改善に役立てることが要件とされています。

この加算はサービスの種類に応じて、図表2の通りに2種類に分かれており、加算取得を希望する事業者は要件を満たせば、1人の利用者ごとに40単位~60単位を取得できます。

図表2:2021年度改定で創設された科学的介護推進体制加算の概要
出典:厚生労働省資料を基に作成
注:1単位は原則10円。 注2:加算額は月単位。

これ以外にも、様々な加算でLIFEへのデータ提出とともに、現場にフィードバックされた情報の活用が要件とされました。例えば、▽計画的なリハビリテーションを実施した上で、LIFEにデータを提出した事業所に加算する「リハビリテーションマネージメント加算」、▽口腔衛生管理を強化している施設がデータを提出した際に加算する「口腔衛生管理加算」(Ⅱ)、▽機能訓練に取り組む施設・事業所がデータを提出すると受け取れる「個別機能訓練加算」(Ⅱ)、▽寝たきり防止に配慮する施設に対する「自立支援促進加算」、▽床ずれの防止に努める施設に対する「褥瘡マネジメント加算」、▽ADLを改善させたデイサービス(通所介護)に対して加算を支払う「ADL維持等加算」――などです。

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