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尊厳の保持と自立支援を考える(後編)~自立の定義を再認識してケアプランを作ろう~

天晴れ介護サービス総合教育研究所株式会社
代表取締役

榊原 宏昌

介護現場をよくする研究・活動を仕事としています!

京都大学経済学部卒業後、特別養護老人ホームに介護職として勤務。社会福祉法人、医療法人にて、生活相談員、グループホーム、居宅ケアマネジャー、有料老人ホーム、小規模多機能等の管理者、新規開設、法人本部の仕事に携わる。
15年間の現場経験を経て、平成27年4月「介護現場をよくする研究・活動」を目的として独立。
介護福祉士、介護支援専門員
執筆、研修講師、コンサルティング活動を行う。
著書、雑誌連載多数(日総研出版、中央法規出版、ナツメ社など)。
年間講演、コンサルティングは300回を超える。ブログ、facebookはほぼ毎日更新中。
オンラインセミナー、YouTubeでの配信も行っている。

「自立支援」について改めて考えて頂き、ケアプランに活かして頂きたいと思います!


介護保険の目的でもある「尊厳と自立支援」

介護保険法第1条では、尊厳と自立支援が目的として示されます。

これは裏を返せば、
要介護状態になると、尊厳が失われ、
自立した日常生活が送れなくなる、
ということを意味しています。

だからこそ、介護保険のサービス(給付)があるのであって、
私たちが関わるからには、
尊厳が失われ、自立した日常生活が送れないままであってはいけない、

ということを意味しているように考えることができます。

当然ながら、私たちが作るケアプランも、
この目的を果たすものである必要があります。


自立とは何でしょうか

介護保険の政策としても、
自立支援の重要性が改めて訴えられています。

それでは、自立とは何でしょうか?

よく、自立=自分のことは自分でできること
と思われがちですが、
そうなると、要介護5の人には自立支援ができなくなる?
ということになってしまいます。

大橋謙策氏(日本社会事業大学教授)は
自立を以下の6つの内容に整理しています(内容の説明は筆者編)。

1.労働的・経済的自立
(労働を通じて社会とつながる、生きていくだけの収入を得ることができる)

2.精神的・文化的自立
(精神的にも文化的にも自己表現を行う、思っていることを伝えることができる)

3.身体的・健康的自立
(自分の能力を活かした活動と参加ができる、病気やストレスと上手に付き合うことができる)

4.生活技術的・家政管理的自立
(家計の管理や日常生活を送る上で必要な食事を作る力、掃除をする力、買物をする力等がある)

5.社会関係的・人間関係的自立
(対人関係能力も含めて、孤独に陥らずに、他者とコミュニケーションをもち、集団的、社会的生活を送ることができる)

6.政治的・契約的自立
(サービスを選択したり、様々な生活上必要な契約を行なったり、政治にも関心をもち、参加できる)

いかがでしょうか?
通常、考えられている自立の内容より、
もっと広範囲であることが理解できると思います。

冒頭で述べた、自立=自分のことは自分でできること、とは、
主には身体的なものや生活管理的なものを指しているのだろうと思います。
つまり、ADLやIADLの内容、ということです。

ADLやIADLについて、
できるところを発揮する機会を設けず(もしくは把握せず)、
介護を繰り返すことで「廃用」を招くことは許されませんので
注意は必要です。

夢の湖村という介護事業所の藤原先生は、
ありがとうの2つの意味について講演等でお話されます。

すなわち、
「なんでもやってくれて助かるよ。すまないねえ。ありがとう。」
これは「引退宣言」であるということ。

それに対し、
「麻痺があってもまだまだできるんだね。
あんたの手伝いがあれば頑張れそうだよ。ありがとう。」
これは「現役続行宣言」であると指摘します。


自立支援はADLだけがテーマではない

ADLやIADLの自立は大切ではありますし、
ADL・IADLの自立が精神的安定をもたらすということ、
プライドを保つということも理解しておかなければいけません。

しかし、ADL・IADLが自立できなかったとしても、
自立とはそれだけではない、という理解が大切です。

精神的自立につながるものと言えるかもしれませんが、
自分のことは自分で決める
選択できる(例:散歩であれば、タイミング、目的の場所、時間帯、頻度など)」が
キーワードになると考えます。

これらは「自律」とも表現されますが、
ここでは「自律」も含めて「自立」と考えて進めます。

そうなると、「意向」が大切になってきます。

ただし、要介護状態の方の中には、
現時点での意向が確認できない場合も多いものです。

そうした場合には、生活歴から読み解く努力も必要になるでしょう。

以前はこんな人だったから、
こういう生活習慣があったから……という具合です。

ただし、これらは、あくまで推測であり、
ひょっとしたら間違っているかもしれない、
「かもしれない」という段階にとどまるべきだろうと考えます。

これがケアをするものが持たなければいけない
「謙虚さ」と考えます。

生活歴・生活習慣という意味で言えば、
高齢者の場合には、従来、自立していた人が障害を負って
自立を失うケースがほとんどであるため、
以前の自立していた姿を知ることが大切になります。

大橋氏が整理した6つの領域で自立していた姿から、
結び直す人間関係や
新たな人間関係を構築するヒントを得ることも重要でしょう。

最初に、身体的な自立だけではない、ということを説明しましたが、
自立支援には「意思決定支援」ということも
重要なキーワードになると思います。

「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」
というものもありますので、ぜひ参考にしてみて下さい。

いかがでしょうか?このようにして考えてみると、
自立支援とはすなわち尊厳の保持、と言えるようにも思えます。

「人としての当たり前」「プライド、習慣」を守るために、
自立支援があるとも言えそうですね。

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