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非日常のお買い物

日常生活では使わない物を買った。改まった場で使うことがあるかもしれない物だ。それをオーダーメイドで買った。

近々実印を使う用事ができそうなので、この機会にちゃんとした実印をつくることにしたのだ。
今まで私が実印として使っていた印は名字だけの認印。印影はすぐ読める字体。百均でも売っている、よくあるあの印である。以前人前で実印を押したときに、ありきたりのこの印を押すのを、少し恥ずかしく感じたのだ。

そこでフルネームの実印を作ることにした。何と書いてあるか分からない、あの独特の字体でフルネームの、ザ・実印、と言えるものを作ってもらうことにした。

まず、印材。大きく分けて木、水牛の角、石(水晶など)、金属とある。私の寿命があと30年あるとして、30年も使うのだから堅牢な素材が良い。木や水牛の角では乾燥によるひび割れや、カケが気になる。石は丈夫だが、万一落とした時はカケる可能性が高い。結果、チタン一択である。チタンは眼鏡フレームでお世話になっているし、丈夫さ耐久性には問題ない。やはり、一番頑丈なのは金属のチタンであろう。

次に文字の字体。ネットで字体を調べた。いくつもの字体があり、それぞれ適した用途があると知った。勉強になって予想外だが楽しい。

文字の字体はいかにも実印という吉相体にした。何と書いてあるか分からないあの字体である。

印の大きさは、見栄えを考えて女性用としては少し大きめなサイズにした。大きい方が迫力があるから、というのがその理由。
印の上部をしめすアタリは、好きな色のスワロフスキーをはめ込んでもらう。チタン製だからお堅い印象の印鑑が、少し女性っぽくなるだろう。これで仕上がりがさらに楽しみになった。

近くに判子屋さんが無いので、ネットで発注。届くまでの数日間、なんだかウキウキしながら待った。判子を買うってウキウキする買い物だったっけ?自分でも意外であった。印影がどんなデザインになっているか楽しみで仕方なかった。

出来上がった実印が我が家へやってきた。ちょっとドキドキしながら開封の儀をとりおこなう。さすがチタン、黒光りするずしりと重い実印。迫力がある。キラリと光るアタリが高級感を醸し出している。
朱肉をしっかり付け初めての押印。印影は隠れ可愛いデザインで、一目で気に入った。よく見ると動物がいるように見えるのである。
初めて持つ太さの印鑑。太いので押す際に安定感がある。

実印は非日常品である。買う機会は一生で何回もあるものではない。ましてやオーダーでつくるのは生涯で一度きりだろう。少なくても私の人生ではこれが最初で最後だろう。
その一度きりの買い物が楽しかったのは幸せなことである。気に入る品に出合えたのは幸運であった。

立派な印鑑を手にすると自分がちょっと偉くなった気がする。この実印に 相応ふさわしい人間になりたいものだ。


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