見出し画像

目覚めよ、姫!

 物陰に眠り姫を見つけた。すっかり存在を忘れ去られた姫は、10年以上も眠り続けている。
もしかしたら、もう目覚めないかも知れない。それは悲しすぎる、辛すぎる。私の大切な姫よ、よみがえれ!、と呪文のように唱えながら私は姫をかかえ、赤い城へ駆け込んだ。

 城内は多くのご老人方で込み合っていた。忘れていた、今日はご老人方へのプレゼントデーなのだ。ロビーはまるで舞踏会のようにわさわさしている。私は隅の椅子に座って自分の気配を消す。
 小一時間ほど経過しただろうか。私の存在は忘れられているのでは、と心細くなったころに、名前を呼ばれた。
「お待たせしました。長くお休みになっていたので、お目覚めいただくのに時間がかかりました」
「お忙しいときに面倒な処理を入れて、すみません」
「いえ、まずこれをお返しします」
馬無し馬車御者許可証を受け取り、すぐ背嚢(はいのう)にしまう。
目覚めた姫が現れた。予想より大きく成長していて、私は驚くと同時に嬉しくなった。


 目覚めてくれて本当によかった。私は大切な宝物を失いかけていたのだ。なぜ大切な姫を忘却の彼方に追いやっていたのだろう。二度と忘れたりするものか、と固く心に誓う。臨時ボーナスだ。奮発してお寿司を買って帰ろう。
 私は足取り軽く家路についた。


 それにしても、危なかった! ずっと休眠預金のまま放置しておいたら、私の貯金姫は、失われてしまっただろう。


お読みくださりありがとうございます。これからも私独自の言葉を紡いでいきますので、見守ってくださると嬉しいです。 サポートでいただいたお金で花を買って、心の栄養補給をします。