私の素顔は汚くない
化粧をやめるきっかけは突然訪れた。
30歳を過ぎてすぐの頃、私は人並みに化粧をしていた。ある日の朝、体調が悪くギリギリに出勤した。化粧をする余裕はなかった。トイレに立ち、鏡を見てギクッとした。
「私の顔、汚い!」と、とっさに思った。
ファンデーションを付けていない肌は、そばかすとシミが目立つ。化粧をした顔の方が”きれい”だ。
でも私は、自分の顔を、素顔を汚いと感じたことにゾッとした。
自分の素顔が汚いと思うこと、それは自己否定そのものではないか?
素顔を汚いと感じる感性は、あまりにも危険ではないか?
私は自分の外見に強いコンプレックスを持っている。顔も体型も規格外だ。
だからこそかもしれない。自分の素顔を汚いと思ってはいけないと、とっさに、強く思った。
素顔を汚いと思えば、顔に対するコンプレックスはもっと強くなり、やがて卑屈になるだろう。
今より自信を無くして、おどおどと生きるようになるかもしれない。
まもなく私は化粧をやめた。一日中素顔でいれば、鏡を見て汚いと思うことは無くなった。化粧で隠し、作り上げた顔と比較しなくなったからだ。
ノーメイクでも何も言われない職場なのは幸いだった。
こうして私は、化粧から己を開放した。化粧をしたときの、皮膚呼吸ができないような気持ち悪さ、からも解放された。外出で力尽きても、メイク落としを気にせずそのまま眠れるのも結構重要。
何より、皮膚への摩擦が最小限になったせいか、50歳を過ぎても目元に皴がない。これは化粧をしない同僚も同じだった。
今の私は化粧はしないが、つげの櫛で髪をくしけずり、ネイルもしている。女は捨ててはいない。
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