愛憎と感謝
Vol.0【ワタシノ愛ノセカイ】
無色透明の愛を掴めそうな出逢いをした。絶望にもがく日常で、私は彼と浸透するような人生交差をしたんだ。
崩壊しかけの魂が震えて叫ぶ。闇に光を射す彼の言葉は希望みたいで、私は恐る恐る光へと両腕を広げて歩もうとする。
彼となら愛の本質に到達するような気がして、我を忘れた私はバランスを崩して混沌に陥った。
◇共鳴する感情
彼のすべてに共鳴する私は時空の感覚が鈍る。そして、魂のつながりを感じるのは私だけではなかった。朝、昼、晩と狂ったように交わす言葉は、愛の言霊そのものだったんだ。
日常の同じ景色が違う風景となり、指先からつま先まで熱くなる。心地よく湧き上がる感情は純粋無垢で、自分を伝えて相手を知ろうとする豊かな時間だけが積み重なってゆく。
繊細なガラスにベールをかけるように、私は丁寧に扱われる錯覚にはまる。心は響き合うのに淡くぼやけたまま、彼との心地よさにうな垂れた。
◇彷徨う愛してる
夢と現実を「言葉」で往来する時間が日常を凌駕する。私はどこにいるんだろう。
現実の世界では契約モノガミーでなければ愛は成就しないらしい。
溢れる「愛してる」を押し殺して、愛を確認しようとするふたり。せめぎあうようにして感情を表現する。
ある日、唐突に彼が言葉を放つ。
「愛してる」
私は10秒ぐらい呼吸を忘れ、静かに深く息を吐き出して言葉を返す。
「愛してない」
スイッチが入ったらしい彼は、私への愛してると私からの愛してるを、まくしたてるように私へ投げつける。
言葉にしなくても私はすでに知っていたんだ。だけど言葉にする勇気がなくて、ましてや言葉を受け取る勇気もなかった。
愛の言葉は世界を創造してしまう。情熱で膨張する私たちの「愛してる」は、切ないくらいに宙を彷徨った。
◇トロケアウ心と体
愛してるを伝えない私と愛してるを伝える彼は、互いに自分の愛を確信する。そして、共鳴してやまない心は、体もとろけあうようにと私たちを掻き立てるんだ。
見つめ合う視線の奥の感情は、揺るぎないのになぜか儚い。危ういのにどうしてなんだろう。私は泡沫を心の隅に追いやって、夢幻の世界に足を踏み入れる。
彼ととろけあう体はますます心を響かせ、私の愛を無色透明にしてゆく。だけど、高まるはずの透明度がなんだかおかしい。
こんなにも全身で愛を感じているのに、彼の心に浸透しきらない気がしたんだ。
◇弱さの舐め合い
硬い心に愛はなかなか沁み込まない。
私を包み込もうとする彼の心はとても繊細で、それこそ薄いガラスのようだった。だからきっと、同じ壊れモノのように私を丁寧に扱うんだろう。
一心不乱に愛せる大切な人を失った現実で、私の弱い心はずっと愛する先を探していた。私の「愛してる」で愛する人に幸せを感じてもらいたかった。
呼吸するように愛する人を愛したかったんだ。
でも彼は違った。私を愛するほどに自分を責めて傷つき、彼をただ愛する私にも苦悩して傷ついた。
◇意識なき破滅
空洞化する愛に嫌気がさすのに、私はまだ彼を手放せなかった。だから自分の感情を表現して、彼の「愛してる」の真意を確かめたんだ。
すると彼の心は鋼の鎧で覆われた。彼にとっては、一度結んだモノガミーの「条件愛」こそが唯一の正義だったらしい。
苦しみもがく彼に私は別れを告げた。
希望の光は真実の愛じゃなかったんだ。そもそも愛を掴もうとする私の思考が破滅的で、それこそ儚い条件愛なんだ。
条件にしがみつく姿に本能が危険を察知したのかもしれない。本質の愛を探した日常を私は言葉で綴り、無意識下で彼を遠ざけた。
私は同じ世界を彼と一緒に眺められると勘違いしたんだ。無色透明の世界ではひとりぼっちが気楽だったのに、ほんとは仲間が欲しかったのかもしれないな。
◇無色透明の愛
彼は愛のセックスを知っているだけに、計り知れない葛藤に陥ったようだ。抑え込まれた元来の心が深層で反応するから脳がバグる。葛藤こそが抑圧された感情の回帰で、「真実の愛」を知る唯一無二のチャンスなんだ。
真実の愛は無条件の愛で無色透明となる。
無色透明の愛は自分を愛する糧だ。自分を愛せないと「愛してる」に条件がついて、尊いはずの愛が形骸化する。現代の親から子への愛がまさにそうで、朽ち果てる寸前の世界で私たちは生きている。
彼の愛の視野を見誤った私は、罪悪感と虚無感で心が押しつぶされそうになった。
自分を愛す力が弱まっていた当時の私は、未熟すぎて愛を育むはずの言葉が醜くくもなる。そして彼を追い詰めて自分も追い詰めた。
面白いくらい一瞬で人間関係が崩壊したんだ。裏返した愛そのままに、湧き上がる彼の憎悪が私へと流れ込んでくる。
私はちょっぴり哀しんだ。
そしてしばらく無になった。
最後にすべてが愛おしくなった。
私の愛の純度の高まりは、彼との愛憎時間にほかならない。
願わくばいつかどこかで、無色透明の愛が彼を包み込みますように。
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