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お醤油ができるまで 〜愛媛県・梶田醤油さん訪問日誌〜

TSUMUGIでは、月に一度のペースで生産者さんのもとを訪れる社会科見学を実施しています。今回は、4月に訪問した愛知県大洲市にある梶田醤油さんについて、メンバーのダイスケくんのレポートを元にお伝えしていきます!


今回は、愛媛県大洲市にある梶田商店さんにお邪魔しました。

松山空港から西に高速で1時間程度、少し迂回して瀬戸内の海岸沿いを行くと1時間半程度のところに大洲市はあります。4月のとても良い天気だったので、ドライブを楽しんで梶田商店さんへ向かうことにしました。

春の涼しくも緩くもない心地よい風に吹かれながら、窓から見える一面の海と連なる山々に癒されるうちに時間を忘れて、あっという間に大洲市に到着!

街中を少し入ったところに、年季のある店構えをした梶田商店さんがありました。

明治7年創業の梶田商店さん。ガラガラと引き戸を開けて暖簾をくぐると、薄暗い店内からフワッと醤油の匂いが香ってきました。

そんな非日常の空間にいらっしゃったのが13代目の梶田泰嗣さん。
簡単に挨拶を済ますと、梶田さんは醤油作りについて語り始めました。

醤油の作り方

醤油の作り方の基本は「もろみを発酵・熟成させて絞って火入れをする」です。もろみとは、塩水に醤油麹を加えたもののことです。

醤油麹は、炒って砕いた小麦と大豆に種麹をまぶして、むろで寝かせたもの。

梶田醤油さんでは、醤油の作り方が描かれているユニークなTシャツも販売しているので、ぜひ見てみてください!

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醤油の製法

醤油には、大きく分けて2つの製法があります。

本醸造製法と混合(混合醸造)製法です。

2つの違いはアミノ酸液を使用するか否か。アミノ酸液を使用する製法を混合(混合醸造)製法と呼びます。アミノ酸=旨み成分で、人工的な旨みエキスを加えているのが混合(混合醸造)製法ということになります。

ただし、本醸造製法=人工的な物質不使用というわけではなく、アミノ酸を液体ではなく粉の状態で用いれば本醸造製法を名乗ることができます。また、砂糖、甘味料の使用は製法に関係ありません。

醤油の味は地方によって異なり、甘いことで有名な九州地方では、混合(混合醸造)製法の醤油が多いそうです。旨みを加えるだけでなく、砂糖などの甘味料を加えた味が好まれるからだそうです。

醤油の仕込み

醤油の仕込みは基本的に冬に行います。
温度管理を行いやすく(麹の温度を抑えやすい)、雑菌の混入リスクを下げられるからです。もろみ(醬油麹+塩水)までの工程を仕込みと呼びます。

①醤油麹
醤油麹は、大豆と小麦と種麹で構成されます。

~大豆~
梶田商店では、国産丸大豆を使用します。
洗って一昼夜含水させ、蒸してから小麦と混合させます。
蒸す釜は昔から使用している鉄製のもので、ステンレス製の釜を使用している他社と比べておいしい味につながっているそうです。

ちなみに、国内の大豆の消費量のうち国産大豆はたった5%だそうです。
国産品は食用大豆として用いられますが、それでも全体の20%程度です。
では、残りの輸入大豆はどこに使用されているのでしょうか?
実は、大豆消費量の70%が油糧用途(=サラダ油)に用いられているそうです。大豆事情は農林水産省のHPにありますので、この機会に覗いてみてください。

ちなみに、醤油やみそにおける丸大豆の使用割合はごくわずかです。一般的には、脂と水分を搾取した脱脂加工大豆が用いられます。大豆から脂分と水分を除くとタンパク質が残るのですが、タンパク質は分解されてアミノ酸(=旨み成分)になるので、丸大豆と比較して脱脂加工大豆は投入量当たりタンパク質を多く含みます。そのため醤油の旨みを引き出しやすいというメリットがあります。

一方で、一度加工を経るため、材料のトレーサビリティ(=生産から消費までの過程を追跡可能な状態にすること)が取りにくいというデメリットがあります。そのため、脱脂加工大豆のほとんどは、産地や遺伝子組み換え食品か否かが不明な材料です。唯一「IP」と記載のある脱脂加工大豆のみが、遺伝子組み換えでない大豆であることが証明された材料として流通しています。

大豆の価格としても、トレーサビリティのあるIP品ですら国産大豆の1/3くらいの価格なので、国産丸大豆を使用する醤油の貴重さが理解できると思います。

~小麦~
麦麹の材料となります。
国内産の小麦を炒って砕きます。
砕くことで表面積が大きくなるので、麹が定着しやすくなります。

~醤油麹~
上記の大豆と小麦を混ぜたものに種麹を分散させて、むろに寝かせます。
むろでは、いかに酵素力の強い麹を育てるかという点にフォーカスをして、温度管理を徹底しながら空気を循環させます。
ポイントとしては、温度の高いところで大豆に含まれる酵素(プロテアーゼ)を育てて、次に温度帯の低いところで麦に含まれる酵素(アミラーゼ)をしっかりと定着させることだそうです。

これで醤油麹が完成します!

② 塩水
塩水もかなり重要です。
梶田商店では、愛媛の美味しい水と適度なミネラルを含む塩を組み合わせることで、醤油のおいしさを引き立てています。
愛媛県はもともと製紙会社が多いなど水に恵まれた土地で、大洲市は盆地でもあるため、良質な地下水を汲むことができるそうです。
塩に関しては、イオン交換膜塩を使用しており、適度な純度の塩を仕入れています。
実際に、塩水を試飲させてもらいましたが、塩分濃度が22%と高いにもかかわらず、塩分濃度3%の海水よりもまろやかで口当たりの優しい味に驚きを隠せませんでした。

①醤油麹と②塩水を混ぜて仕込みが完了です!

発酵・熟成

もろみを木桶などに投入し発酵・熟成させます。
定期的に攪拌させながら2年近く熟成させます。

一般的な醤油の場合は早くて6か月で完成するそうです。
発酵・熟成過程で加温したり、酵素を添加することで、醤油の製造において最も時間のかかるこの工程を短縮できるそうです。

絞り、火入れ、濾過・精製、瓶詰め

火入れ後に砂糖や保存料などを加えて味を調整する醤油メーカーが多いそうですが、梶田商店さんは余計なものは加えず瓶詰めをします。

これで天然醸造の醤油を追求した梶田商店さんの「巽」が完成します。
開封後は冷蔵庫での保管が必須とデリケートではありますが、今回のお話と工程を見学して、それが本来の醤油のあるべき姿と気づきました。

梶田さんの想い

なぜ、ここまで天然醸造にこだわるのか?
そこには、伝統的な日本人の食生活を守りたいという想いがありました。

現代の日本の食生活は、昔と比較してお米の消費量も減り、小麦や油の消費量も増えています。この変遷はいつからなのかというと、戦後にアメリカ文化の輸入がされた時期からだそうです。

こういった食文化の変遷もあり、日本でも年々生活習慣病が深刻化しています。

だからこそ、梶田さんは人間の血となり肉となる「食」がきれいにならないとこのような問題は解決できないという信念を持ち、自然で美味しくて普通の人でも手が届くような醤油を作り続けています。

こういった想いを持った生産者さんの作ったものを買うことも、自分にも地球にも善い暮らしをつくるアクションのひとつ。ふだんの買い物でも、ただただ安価なものを追い求めるのではなく、その生産背景にも思いを寄せて商品を選んでいきたいなと感じました。



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