平澤季歩

平澤季歩

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  • ふみのわ

    • 42本

    文芸部「ふみのわ」の文芸集です。 顧問のわたし、文(ふみ)先生が定期的に課題 "ぶんげぇむ" を出しますので、部員の皆さんはしっかりと課題に取り組んでくださいね! もちろん部員でない方も、ご自由にお読みいただけます。 ぜひフォローしてくださいね。

最近の記事

友情

 規則正しく並べられた本の隙間から、由美がこちらを見てふっと笑った。僕は照れくさくなって、読みたくもない小説に手を伸ばした。なんとなく拾ってきたその表紙を開き、数ページ読み進めたところで、重たそうに本を抱えた彼女が戻ってきた。窓から差し込む光が、華奢な腕についたわずかな筋肉を浮き彫りにする。 ――このシーン、懐かしいな。 今度は僕が笑ってしまった。彼女は静かに僕の隣に座ると、本の山から1冊手に取り、ページをめくり始めた。僕は瞼を閉じて彼女に気づかれないように静かに深呼吸をした

    • mudai

      元気? 元気じゃないってわかっているのにそんなこと聞くなんて そんな芸のない人、嫌いだったんだけどな やっぱりこういうとき「元気?」って聞いちゃうよね ごめんなさい この「ごめんなさい」もいらないってわかっているけど 書いちゃった だから許してね なんて言えばいいのか 言い表せないから今まで何もできなかったんだけど わかっているんだけど 言葉にしようと思っている私は結局バカなんだよなあ こんなの書いて、どうしたいんだろう どうしたいんだろうね わかんない でも書くね どう

      • マーブル

        しいて言うならエメラルド 本当はいつも泣いてんだ 明るい闇で一緒に踊ろう 見えるとこだけ取り繕うなよ どうせ中身は傷だらけだろう 君と行くならどこへでも そうさ道には花のあと 絵具を溶かした重たい水に沈んでよ 君の心はレンガのよう ノートはいつも真っ黒だ 光の中へ引き込み落とそう 消えるとこまでノンフィクションだよ だって中身は空っぽだろう 書いた分だけ忘れてくんだよ どうせ最後はただの雑魚 羽根ほど軽いレンガの壁を砕いてよ

        • サニーサイドアップ

           由美ちゃんは、目玉焼きが食べられない。黄身だけで食べることができないから、茹で卵も嫌い。どろっとした食感が苦手だから、生卵も食べられないし、半熟卵ですら口にできない。唯一、黄身と白身がしっかり混ざった甘い卵焼きは大好き。だけれど、朝食に卵焼きばかり出すわけにはいかないから、目玉焼きを作るときは手順がある。はじめに卵をボウルに割り入れる。次に、油を引いたフライパンの上に卵をそうっとのせたら、お箸で黄身を2、3回潰すのだ。フライパンを傾け、卵を薄く広げて数分焼いたら、フライ返し

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        • ふみのわ
          42本

        記事

          The Sound of Silence

           こうなることは、どこかでわかっていた。そうは言っても、脳で理解するのと実際に目にするのとでは、わけが違う。布団の裾からはみ出たベージュピンクのネイルが、数時間経った今でも脳裏にこびりついている。あんな控えめな色を足に塗るなんて、どうかしている。よりによって、いつかのあの人と同じ色味。「接客業だから清潔感が大事なのよ」と、私に見せつけたあの疎ましい色。あいつの趣味もここまで来たのか、馬鹿野郎。「来ちゃった」と、安易に彼氏の家に行くものではない。でもさ、私の家でもあったのにな。

          The Sound of Silence