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全集に無い内田百閒の座談を読む。(新田丸・氷川丸座談会編)


 百閒先生の新刊が出たぞーー!!
(ドンドンパフパフ)

 のっけから大声ですみません。令和になっても(もっと言うなら2021年の没後50年の節目が過ぎても)百閒先生の本が出るのが嬉しくて、つい…。中公文庫さんありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

 しかも来月(2月上旬)には『初稿 冥途』も出ますしね!書肆盛林堂さんで予約受付中ですよ皆様!私はクラウチングスタートで予約しました!

 さて、中公文庫2022年1月新刊の内田百閒『蓬莱島余談』。文庫オリジナル編集のこの本には、百閒先生がひたすら汽車に乗った台湾旅行の話や、日本郵船嘱託時代の豪華客船の話などが収められています。

 どのお話も楽しいのですが、今回取り上げるのは後半の船の話。それも、百閒先生には珍しい、文壇の人々との関わりのエピソードです。

新田丸座談会をよむ。

 日本郵船の嘱託として働くことになった百閒先生は、新田丸新造の記念として、作家や芸術家を招いた横浜〜大阪周遊の旅の仕事を頼まれます。選ぶだけ選んでみよう、とたくさんリストアップした中から実際に乗船したのは、川端康成、横光利一、里見弴、久米正雄、大佛次郎、吉屋信子…と豪華な面々(ちなみに正宗白鳥、谷崎潤一郎、菊池寛、小林一三も招待されていたのですが、新田丸の就航が遅れて参加の都合がつかなくなったそう)。収録作の「新田丸座談会覚書」等で、その経緯や船の中での出来事を読むことができます。

 しかし。
 実はこのときひらかれた新田丸での座談会は、百閒先生の本には何故か収録されていないのです。

 百閒先生の対談や座談を集めた本は、単行本『百鬼園坐談』『続百鬼園坐談』や、旺文社文庫『百鬼園先生よもやま話』、ちくま文庫内田百閒集成『深夜の初会』、また福武書店『新輯内田百閒全集』32巻など、色々な本があります。新田丸座談会についての随筆もいくつかの本に載っているのに、肝心の座談会本編はどこにもない。…ない、はず…(私が見つけられていないだけでしたらすみません)。

 だけど読みたい!座談会の裏話を読んだら、その本番も読みたくなるのは必然。でもな〜どこにあるんだろうな〜〜と、ぼんやり過ごしていたある日。たまたま巡り合ったのです。

https://www.amazon.co.jp/%E5%AE%AE%E5%9F%8E%E9%81%93%E9%9B%84%E8%91%97%E4%BD%9C%E5%85%A8%E9%9B%86-%E7%AC%AC3%E5%B7%BB-%E5%AF%BE%E8%AB%87%E3%83%BB%E5%BA%A7%E8%AB%87-%E5%AE%AE%E5%9F%8E%E9%81%93%E9%9B%84-%E4%BB%96/dp/4866770767#

『宮城道雄著作全集』第三巻に、さらっと載ってるゥ!

 そう、百閒先生の親友である箏曲家の宮城道雄も、新田丸での座談会に参加しているのです。というわけで、宮城道雄の対談と座談を集めたこの本に、新田丸座談会こと「浮世はなれて海上閑談会」が収録されているわけですな。ありがたやありがたや…。

 いやあ、読んでみたら思ってたよりずっと面白かったです。なんなら百閒先生の出番が少ないから未収録なのかな?と思ってたくらいなんですが、しっかり口を挟んで場を引っ掻きまわしているし(褒め言葉です)、いろんな作家の話が楽しめる。

 久米正雄が宮城道雄に「百鬼園氏の琴は、どのくらいです?」と聞いたところで、百閒先生が「一万トン級と言って下さい」と大きく口を挟んでいたり、辰野隆が小学校で一緒だった里見弴の家に上がって木馬に乗っていたら、いつのまにか有島武郎がそこにいて、ニコニコ笑って眺めていた話なんかも読めます。ほのぼの。

 とはいえこの本、運良く行きつけの図書館にはあったのですが、禁貸出で館内閲覧のみ。じっくり読んで楽しんだものの、やっぱり手元に欲しい……。

たいへん「時局」を感じる時期の本

 そんなときは、そう!
 初出の掲載誌を買ってしまえばいいんですね!!

 というわけで、日本の古本屋にちょうど出ていた「文藝春秋」昭和15年6月特別号が我が家にやってきたわけです。雑な解決ですが結局これが一番手っ取り早いんだよなぁ……。

 もちろん、遠隔複写サービスなどを利用するのもいいと思います。「浮世はなれて海上閑談会」は、p268〜p286掲載ですので、どうぞご参考ください。

氷川丸座談会をよむ。

 これで味をしめた私は、さらにこれまた百閒先生の本には載ってない(多分…)、氷川丸座談会の方にも手を伸ばしました。

 これもまた「氷川丸座談会覚書」として、座談会の経緯を書いた随筆が『蓬莱島余談』に収録されています。こちらは海の記念日制定に絡めたイベントで、百閒先生が司会進行をしています。参加者の有名どころは柳田國男や林芙美子など。

 こちらは他に載っている本が見当たらない。しかし朝日新聞に掲載されたことも、その年と月もわかっているので、図書館で過去の新聞にあたるだけです。

 幸い、朝日新聞の縮刷版で見つけることが出来たため、サクッと複写できました。

権利関係に配慮してぼかしております。

 海の記念日制定記念の氷川丸座談会こと「海ゆく座談會」は、昭和16年7月18、20、21、22日の朝日新聞朝刊5面に掲載されています。他の記事も満遍なく戦時下時局〜!だし、座談会もそういうニュアンスの話題が多くてなかなかに凄みがありましたね…。

 とはいえ全体的にはまったりとした娯楽ムードでもあり、最終回の末尾がクワッと目を見開いた百閒先生の「デハ ココラデ」と言っている似顔絵なのも大変味があっていいですね(気に入った)。

全集になくても、読もうと思えば読めたりする

 もちろん物によりますが(実際、読んでみたいと思いながらも見つけられていない他作家の談話などもある…)、初出や掲載誌がわかっていれば、わりとなんとかなる(こともある)んだな〜、と、なんとなく実績解除した満足感がありました。

 ちなみにこの後、また戦時下の別の雑誌で初めて見る百閒先生の対談を見つけたりしたので、そのへんの話もまた情報としてまとめたいと思っています(別に新たな発見とかではない、たぶん知ってる人は知ってる感じのやつです)。

 後日:書きました。

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