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そろそろ内田百閒を読みたくなってきたあなたへ【出版社別ブックリスト】

 そろそろ……読みたくなってきたんじゃないですか?内田百閒。

 唐突な決めつけから失礼いたします。一介の内田百閒を読んでくれオタクです。

いやほんと、たくさんある。

 いやしかしね、読め読めと言ったって、百閒先生の本って、ほんとにいっぱいあるんですよ。私が揃えているのはほぼ文庫なんですけど、なんと文庫だけで全ての作品が読めてしまう(生前刊行の全ての著作が文庫化している)という、著作権保護期間中の近代文学(現代でもあるのか?)の作家ではなかなか稀有な存在でして……。

 しかもいろんな出版社からいろんな文庫で出ているので、重複もあれば、その文庫にしかない本もある。新刊流通だけでも岩波・新潮・中公・ちくま・平凡社・双葉社があり、現在古本流通のみのものも加えると、旺文社・福武・河出・講談社とさらに目白押し。

 そんなの、何から手をつけたらいいかわからーーん!!
 ……という迷子のあなたの道しるべとなるべく、各出版社・文庫レーベルごとの傾向と対策をまとめました。

・情報は2023年2月時点のものです。
・書いている人間の蔵書が文庫に偏っているため、ひとまずは文庫についてのみ記しています。全集等の話も後日改めて加えたいです。

【新刊書店で買えるもの】

 このようにナラベルでリストも作っておりますが、以下、具体的な紹介をしていきます。


小説を読むなら!の岩波文庫

『冥途・旅順入城式』
『東京日記・他六篇』…東京日記/白猫/長春香/柳撿校の小閑/青炎抄/南山寿/サラサーテの盤

 内田百閒の小説(創作)作品を読むなら、ひとまずこの二冊を押さえておけば大丈夫。だいたいカバーできます(「贋作吾輩は猫である」や「居候匆々」、童話類、その他短めのものはまた別)。

 2023年2月現在、岩波書店公式サイトでも「在庫あり」、岩波文庫を多めに置いてある書店になら大体ある印象です。安定して手に入りやすい。

 『冥途』は百閒先生が初めて世に送り出した作品ですし、まず初めにここから手をつけて、独特の世界観を味わうのもいいかと。→以前書いた『冥途』解説記事はこちら

 ちなみに内田百閒を「小説(創作)から」読んだ人と、「随筆から」読み始めた人では、百閒先生への印象が二分する説もあるとかないとか……。初めに読んだ作品というより、どちらを好むか、どちらに惹かれるかという話のような気もしますが。

 なので、小説を読んで「ちょっと合わないかも……」となった方は、ぜひ随筆の方も読んでみてください。その逆もまたしかり。もちろん、どちらも合うし好き!という人もたくさんいます。

 また、百閒作品は時に「創作小説」なのか「随筆」なのか、境界が曖昧なものもあり、『東京日記・他六篇』では入り混じったものも含まれます。

 岩波文庫版はすべて新かな遣いです。


安定したベストセラーの新潮文庫

『百鬼園随筆』
『続百鬼園随筆』※絶版
『第一阿房列車』…特別阿房列車/区間阿房列車/鹿児島阿房列車/東北本線阿房列車/奥羽本線阿房列車
『第二阿房列車』…雪中新潟阿房列車/雪解横手阿房列車/春光山陽特別阿房列車/雷九州阿房列車
『第三阿房列車』…長崎阿房列車/房総阿房列車/四国阿房列車/松江阿房列車/興津阿房列車/不知火阿房列車

 『冥途』が小説デビュー作なら、『百鬼園随筆』は初めて出した随筆集。この後、五十作近くの本を出すことになる、人気作家内田百閒を生んだ出世作です。→以前書いた『百鬼園随筆』解説はこちら

 『百鬼園随筆』は最初の随筆集ということで、何年か分の作品を集めている都合上、まとまりに欠けていたり、急に小説や小説風の作品が入っていたりと、ちょっととっつきにくいところもあるかもしれません。

 それでも、その後の百閒随筆に見られるテーマや百閒先生のエッセンスは既にすべてここに集約されていて、まずは「内田百閒の随筆」を味わう一冊目として良いと思います。よくわからないところがあっても面白くって笑えますし。

 新潮文庫版『百鬼園随筆』は令和になっても増刷されていて、百閒作品の中でも、書店店頭での手に入りやすさではかなり上位に入ると思います。個人的には絶版(品切?)の、『続百鬼園随筆』も復活してほしいですね……古本流通では時に希少品でもないので、古本OKな方は『続』はそちらで。

 『阿房列車』全三巻もまた、比較的安定して在庫がある印象です。なんてったって代表作、元祖乗りテツによる、ただひたすら鉄道に乗るのが主旨の「用事のない旅」。鉄道旅や紀行文の好きな方、トボけた会話の応酬がお好きな方にお勧めです。

 新潮文庫版はすべて新かな遣いです。


テーマ別アンソロジーの中公文庫

※『ノラや』『東京焼盡』『御馳走帖』は旧版の表紙です。
※現行版の表紙はこちら。

『御馳走帖』…食べ物
『ノラや』…飼猫ノラの失踪と2匹目の猫クルツ
『東京焼盡』…空襲下の東京での日記
『一病息災』…病と健康
『大貧帳』…借金
『阿呆の鳥飼』…小鳥やその他小動物
『追懐の筆』…追悼文集
『蓬莱島余談』…客船・台湾旅行
『百鬼園戦後日記(Ⅰ〜Ⅲ)』…没後刊行された日記
『恋文』『恋日記』※絶版 …若き日の恋と情熱を綴った日記と手紙

 『一病息災』『恋文』『恋日記』以外はすべて電子書籍もあるのがありがたいシリーズです。『百鬼園戦後日記』は各巻とは別に三冊合本版の電子書籍もあります。

 百閒先生の若い頃の恋を綴った『恋文』『恋日記』は絶版、病遍歴など健康にまつわる随筆を集めた『一病息災』も、今は在庫があんまりないかも……。

 その他は書店店頭でもまだよく見かける印象です。特に『追懐の筆』は2021年、『蓬莱島余談』は2022年に出たものなので、見つけやすいはず。

 中公文庫の百閒本の特徴は、かなりがちがちにそのテーマの話を集めているところですね。とにかく鳥や小動物の話を集めた『阿呆の鳥飼』、借金の話を集めた『大貧帳』、『蓬莱島余談』は船の話と台湾旅行の話、『追懐の筆』は「漱石先生臨終記」を始めとする追悼文の集成です。

 「百閒先生のこのテーマの話が読みた〜い!」という欲を満たすにはぴったりなのですが、何せ同じ題材の話が続くので、時々重複するエピソードがあったり、読んでいて飽きてきたり……(は、読者次第なのですが)。

 しかしテーマの一点突破という観点では、他のレーベルよりも選びやすくて助かります。

 ちなみに今回改めて確かめて気づいたのですが、中公文庫のシリーズでは、新かな遣いの本と、旧かな遣いの本があるんですね。

 『御馳走帖』『ノラや』『東京焼盡』『追懐の筆』『一病息災』『百鬼園戦後日記(Ⅰ〜Ⅲ)』『恋文』『恋日記』は旧かな遣い、『大貧帳』『阿呆の鳥飼』『蓬莱島余談』は新かな遣い。どういう選択基準なのかは不明です(元の単行本があるか、文庫オリジナルかの違いでもなさそう……)。個人的には『ノラや』を旧かなで読めるのがちょっと嬉しい。


内田百閒集成を擁するちくま文庫

内田百閒集成シリーズ(全24巻)
1『阿房列車』…特別阿房列車/区間阿房列車/鹿児島阿房列車/東北本線阿房列車/奥羽本線阿房列車/雪中新潟阿房列車/春光山陽特別阿房列車
2『立腹帖』…阿房列車以外の鉄道随筆
3『冥途』…小説。他『旅順入城式』収録小説も。
4『サラサーテの盤』…小説。岩波の『東京日記』に入っていないものも多め。
5『大貧帳』…借金
6『間抜けの実在に関する文献』…教師としての回想や、漱石・木曜会周りの話
7『百鬼園先生言行録』…表題作(小説)他随筆
8『贋作吾輩は猫である』…小説
9『ノラや』…猫(ノラやシリーズの他、小説も)
10『まあだかい』…還暦以降の誕生日を祝った「摩阿陀会」関係
11『タンタルス』…酒、飛行機、客船
12『爆撃調査団』…食べ物、「物」
13『たらちおの記』…郷里岡山の回想
14『居候匆々』…小説。他、「王様の背中」(童話)
15『蜻蛉玉』…小鳥、箏(琴)等随筆
16『残夢三昧』…火事、闇、夢
17『うつつにぞ見る』…人との関わり、文壇人
18『百鬼園俳句帖』…俳句とそれに関する随筆等
19『忙中謝客』…家、住処、土地
20『百鬼園日記帖』…自ら出版した大正期の日記
21『深夜の初会』…対談集
22『東京焼盡』…空襲下の東京での日記
23『百鬼園戦後日記』…没後刊行された日記
24『百鬼園写真帖』…写真資料と年表、総目録

『ちくま日本文学001 内田百閒』
『私の「漱石」と「龍之介」』
『小川洋子と読む 内田百閒アンソロジー』

 ちくま文庫はなによりも内田百閒集成シリーズですよね!クラフト・エヴィング商會の装丁が好き……。面陳するとさらに良き。本文のフォントや字組も好きなんです。

 ただ悲しいかな、内田百閒集成シリーズは現在は代表作の数点しか在庫がないようです。その代わり、『冥途』『サラサーテの盤』『阿房列車』『ノラや』『贋作吾輩は猫である』あたりは大型書店なら比較的置いてある印象。阿房列車シリーズ以外の鉄道随筆をまとめた『立腹帖』もまだあります(ネット書店で在庫切れになっても再入荷したりしている)。

 他の巻は古書流通で……となるわけですが、内田百閒集成は元が千円前後の本で、なおかつ物によっては希少なため、古本の文庫としてはまあまあお高めの金額になりがちです(もちろんお安い場合もあります)。あと探してもなかなかない巻もある。私も半分くらいしか揃えられていません。

 ただ、このシリーズは図書館に置いてあることも多い(※個人の観測上の印象)ので、そちらで探して読むという手もあります。

 ちなみに、あくまで「集成」なので、全巻集めても全ての百閒作品が読めるというわけではありません(not「全集」)。
 また、ちくま文庫版の『阿房列車』は阿房列車シリーズの中からいくつかの旅を取り上げたものなので、阿房列車を全部読みたい!という方は新潮文庫版等をどうぞ。

 内田百閒集成は、中公文庫のようなテーマに合わせてガチガチに固めたセレクトではなく、一冊につき、いくつかのテーマに沿って作品を集めているようです。上記リストの「…」以降の説明は、24巻『百鬼園写真帖』掲載の収録作品目録を見ながら私がざっくり表現したテーマ分けのため、厳密にはそれ以外の話も入っています(ここで特に「小説」と書いていないものは基本、随筆です)。

 巻末には、百閒先生と同時代の人の文章(百閒先生を語るものや評文)と、現代の作家等の解説がひとつずつ収録されていて、『冥途』には百閒の小説作品を推薦した芥川龍之介の「内田百間氏」、フロックコートの話や百閒先生には珍しい文壇人との話が少し入った『うつつにぞ見る』には佐藤春夫の「礼装」等、その本に合わせたセレクトなのが楽しい。

『ちくま日本文学 内田百閒』の収録作品(裏表紙より)

 『ちくま日本文学001 内田百閒』は「ちくま日本文学」シリーズの一冊。このシリーズを置いている書店にならまだある印象です。
 この本は収録作品がかなり良くて、『冥途』『旅順入城式』から小説の主なものが入っているほか、随筆もあり、阿房列車第一回目の「特別阿房列車」もある。何を読んだらいいかわからないけど内田百閒を読んでみたい!という方に、まずおすすめしたい一冊です。ここで小説や随筆、阿房列車を読んでみて、気に入ったものをさらに他の本で追っていくのもいいと思います。

 『私の「漱石」と「龍之介」』はタイトル通り、師匠である漱石との思い出と、同門の友人芥川龍之介との奇妙な距離感の友情の回想をまとめたものです。この本収録のエピソードは世に紹介されることが多いので、「どこかで聞いたあれはここがネタ元だったのかー!」となるかも。人物の関係性を好むタイプの方には特におすすめです。

 『小川洋子と読む 内田百閒アンソロジー』は、主に小説を中心に、小川洋子が百閒作品から24篇を選んだ本。セレクトが「小川洋子がこれを選んだの、わかる〜〜」という感じで、小川洋子作品が好きだとより楽しめます。各作品の末尾に小川洋子のコメントあり。(個人的には解説は巻末にまとめてあるタイプが好きなのですが、各話ごとにあるのが好きという感想も聞くので、ここは好みの問題ですね)

 内田百閒集成シリーズと『小川洋子と読む内田百閒アンソロジー』は新かな遣い、『私の「漱石」と龍之介』は旧かな遣いです。


平凡社ライブラリーと双葉文庫

平凡社ライブラリー
『内田百閒随筆集』
『百鬼園百物語 百閒怪異小品集』

双葉文庫
『恐怖と哀愁の内田百閒』

 平凡社ライブラリー『内田百閒随筆集』は、昔、他の出版社から出ていた単行本を元にしています。そのため、収録作品は百閒先生の最も近しい弟子であった平山三郎氏のセレクト。さすが良い随筆がまとまってますし、巻末に平山氏の解説も付いているのが嬉しい。2021年刊なので実店舗の在庫も(平凡社ライブラリーを置いてある店なら)安定、電子書籍もあります。内容は主に晩年の随筆。

 平凡社ライブラリー『百鬼園百物語 百閒怪異小品集』と、双葉文庫『恐怖と哀愁の内田百閒』は出版社は違いますが、同じ編者によるものなので、まとめて考えると把握しやすいです。
 『百鬼園百物語』は、百閒の小説・随筆・日記から短くて怖い・奇妙な話を100本集めた面白い本。
 『恐怖と哀愁の内田百閒』は、『百鬼園百物語』には入れられなかった、長めの怖い話を収録したもので、こちらは腰を据えて怖がりにいく感じですね。『恐怖と哀愁の〜』は電子書籍もあります。


【電子書籍のある内田百閒単著リスト】

 電子書籍は私がKindleを使っている都合上、Kindleにあるか否かでのみ調べていますが、ざっと検索した感じ、他のプラットフォームでも似たようなラインナップ……かな?

中公文庫
『ノラや』
『御馳走帖』
『阿呆の鳥飼』
『大貧帳』
『東京焼盡』
『百鬼園戦後日記(Ⅰ〜Ⅲ)』
※合本版もあり
『追懐の筆』
『蓬莱島余談』

平凡社ライブラリー
『内田百閒随筆集』
双葉文庫
『恐怖と哀愁の内田百閒』

 基本、解説もそのまま収録されています。


【古本流通のみの本たち】

 現行流通で絶版品切だったり、そもそも出版レーベルが今は存在しないものは、古本流通で探すことになります。日本の古本屋「内田百閒(または内田百間/百鬼園)」と検索したり、古書店や古本市などで探してみましょう。その他、個人の古本屋さんの通販、大手古本チェーン、フリマ・オークションサイト等、手段はいろいろです(お取引は自己責任で)。


全作品コンプリートの旺文社文庫

 上記の記事でも紹介していますが、旺文社文庫は内田百閒の単行本(編纂本を除く)をそのまま文庫化したシリーズで、全39冊を揃えると内田百閒の作品をほぼすべて手に入れることができる、すごい企画です(没後刊行された日記や単行本未収録のものを除く)。

 単行本複数を合本したものもありますが、基本的には一冊につき一文庫。このシリーズのありがたいところは、単行本準拠の収録作品のため、作品を時系列に沿って読んでいくことができるところなんですよね。

 基本的に現行の百閒作品の本は、いろんな時代のいろんな作品をまとめたアンソロジーなので、一冊の本の中で、五十代に書いたものも、七十代に書いたものも、戦前のまだ余裕があった頃のものも、戦後すぐの小屋暮らしをしていた時のものも、前後あまり関係なくシャッフルされています(もちろん、テーマ別アンソロジーも、そのあたりに注意したものはありますが)。

 単行本準拠のラインナップを読むことで、その当時の作風や周辺環境を思い浮かべながら楽しむことができるのが、旺文社文庫版のいいところです。

 逆に、テーマごとにまとめられた本ではないので、例えば『ノラや』の巻を読んでも、他のレーベルのように一冊まるごと飼猫ノラやクルツの話が読めるわけではありません。その代わり、単行本や全集と同じく、当時の読者からの「ノラを失って悲しむ百閒先生を励ますお便り」が収録されていたりします(これは現行流通の文庫レーベルには入っていません)。

 あとは巻末の平山三郎による解説が詳しくてとても助かる。同時代の作品評価や、当時の新聞記事、人間関係の補足まで、きめ細やかに書き記していてくれて、個人的にはこの解説ばかりを集めた本も欲しいくらい……。

 旺文社文庫は新漢字・旧かな遣い。ただし人名など固有名詞は単行本準拠の旧漢字が使われています。

 旺文社文庫版は、そのほかに書簡を集めた『百鬼園の手紙』(講談社版全集から抜粋したもの)、対談をまとめた『百鬼園先生よもやま話』、周辺の人々による百閒先生の回想を集めた『回想の百鬼園先生』もあります。


親しみやすい福武文庫

 古本屋や古本市で何も考えず買っていた百閒作品の文庫本、よく見たらあれもこれも福武文庫版だった……という経験があるレーベルです。

 単行本準拠の収録作で出したものと、文庫オリジナルのアンソロジーと二種あって、後者はちくま文庫内田百閒集成への流れの元でもある……のかな……?(ちくまの集成目録に「福武文庫版から追加した作品」の欄があるので……)

 福武文庫は帯に「親しみやすい新かな遣いで登場!」みたいなことを書いてるものがあったりして(※うろ覚え)、旧かな遣いを厳守した百閒作品をあえて新かな表記に舵を切った節目だったのだろうと思います。(実際のことはよく知りませんが)

 個人的には、中公文庫にもちくまの集成にも今のところないテーマでのアンソロジーがあったりするのがお気に入りです。教師時代の回想をまとめた『先生根性』や、音楽関係の話をまとめた『青葉しげれる』など。ちくまの集成にも似たものはあるんですが、あちらはややフワッとした集め方なので……中公文庫のがっつりワンテーマ方針で集めた、中公文庫にはまだないテーマのアンソロジーという感じ。助かります。


さりげないベスト盤、講談社文芸文庫

『百閒随筆Ⅰ』
『百閒随筆Ⅱ』

 さりげなくとても良い本なので、再版や電子書籍化して欲しい二冊です。古本流通でもあんまり見かけないかな……本当は常に誰でも買えるようになって欲しいんですが。そのくらいお薦めです。

 私は百閒先生の本を人にお薦めするとき、まず「どんなテーマの本が読みたい?」から入るんですが、それはほとんどの本が、テーマ別に集められたアンソロジーだからなんですよね。

 なので、「特にテーマにはこだわらないから、面白いやつがいい!」となったらちょっと困る。『百鬼園随筆』はいろんな話題の随筆が入ってますが、あくまで最初期の数年分の作品ですので、中期・後期の作品は入ってない。平凡社ライブラリーの『内田百閒随筆集』もいいんですが、あれはあれで晩年のもの中心です。

 ほんとはもっといろんな時期の、とにかくいいやつばかり集めたベスト盤が欲しいんだ!!
 ……という気持ちにぴったり沿ってくれる、池内紀編のこの二冊。いろいろな時期の「特に良いやつ」を集めた、嬉しいセレクトです。

←左:百閒随筆1、右:百閒随筆2→

 あとは手に入りやすければ文句なしなのですが。文字の大きな別版(内容は同じ)は、数年前まではまだ大型書店の隅に残っていたイメージですが、最近はどうかな……。あと個人的に、このレーベルの大判版はフォントの解像度が微妙だった記憶があるので、そのへんもちょっと惜しい……(個人の意見です)。

 講談社文芸文庫は、近年電子書籍に力を入れてきているので、この流れで電子化復活して欲しいですね。要望メール出そうかな。

 二冊とも新かな遣い。


いい仕事してる河出文庫

『漱石先生雑記帖』
『芥川龍之介雑記帖』

 河出文庫自体は現役レーベルですが、この二冊は古書のみです。ちくま文庫の『私の「漱石」と「龍之介」』と内容はほぼ同じなのですが、それよりももうちょっとだけ収録数が多い。

 例えばちくま文庫の『私の「漱石」と「龍之介」』には、有名な漱石の鼻毛にまつわる「漱石遺毛」が収録されていますが、河出文庫『漱石先生雑記帖』には、それに加えて「漱石遺毛その後」という続編も入っています。結構この続編の方に大事な情報が入ってたりするんですよ(個人の意見です)。

 また、『芥川龍之介雑記帖』には芥川龍之介との話だけでなく、鈴木三重吉、田山花袋などを回想した話も入ってますし、新潮文庫版『百鬼園随筆』表紙でお馴染みの芥川龍之介画・内田百閒の絵が3枚全て掲載されています。実はあんまり使われない3枚目が一番好きなので嬉しい。
 他、芥川が百閒について書いたもの二篇(「内田百閒氏」「冥途」)も載っています。

 どちらも旧かな遣い表記。


 さて、ここまで文庫の話ばかりしてきましたが、もちろん全集で読むという手もあります。むしろ図書館で読むなら全集が一番安定した手段という気もしますね。

 こちらは私がまだ調べが足りていないため、また後日追記したいと思います。また、ほかにまだ書きたいことがありますので、予告のごとくアウトラインのみ記しておきますね。

【全集で読む】
講談社版(全10巻)
福武書店版(全33巻)
【単行本で読む】
【ビジュアル資料】
『百鬼園寫眞帖』(旺文社単行本)
『百鬼園写真帖』(ちくま文庫)
『別冊太陽 内田百閒』(ムック本)
『新潮日本文学アルバム 内田百閒』(単行本)

 それでは、皆さまよき内田百閒読書を!(無理やり締める)