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Señor Coconut And His Orchestra『Yellow Fever!』

僕は毎日音楽を聴きますが、その日の調子に合わせて適したものをチョイスします。
明るい気分の時に明るい音楽を聴く。
暗い気分の時に暗い音楽を聴く。
明るい気分になりたくて明るい音楽を聴く。
暗い気分の時には聴けない暗い音楽を聴く。
その時々で欲する音楽は変わりますが、自分が求めた音楽をピッタリと選べた時に音楽の価値を見出すことができます。

僕は個人的には暗い音楽が好きで、気付けばそういったアルバムばかり買ってしまう。
所謂厨二病なのか、闇の方が魅了的に感じてしまうらしい。
事実、暗い気分の時に阿部薫みたいな暗い音楽を聴くと何故か心に余裕ができます。
頭のもやを吹き飛ばしてくれるように。

でも、比較的楽観的な性格で暗い気分になかなかなれない僕の愛聴盤はどうしても明るい音楽が多い。
しかも、明るい音楽は体力を使わないで済むので選びやすいのだ。

今日は特に明るい気分になる僕の愛聴盤を紹介します。

Señor Coconut And His Orchestra ‎『Yellow Fever』

1968年生まれのドイツ・フランクフルト出身の電子音楽家 アトム・ハート。
彼は数多くの名義で短命なプロジェクトで作品をリリースすることでも有名ですが、そんな彼の中でも一際異色で長い活動歴を持つのがこのSeñor Coconut And His Orchestra(以下 セニョール・ココナッツ)です。
セニョール・ココナッツは楽団を率いてラテンミュージック×デジタルなユニークで底抜けに明るい音楽を聴かせてくれます。

今回紹介する『Yellow Fever!』はなんとYMO(イエローマジックオーケストラ)のカヴァーアルバムです。
YMOと言えば日本が世界に誇るテクノユニットですが、それを陽気なマンボ風に昇華した能天気かつアグレッシブな作品。

テクノ meets ラテンとはやや違和感を覚えるかも知れませんが、僕からするとまた別の違和感が。
そもそもYMOの起源が「マーティン・デニーの『ファイヤークラッカー』をシンセサイザーでカバーする」だった訳です。
マーティン・デニーとはニューヨーク出身の作曲家で、ラテン要素も含むエキゾチックサウンドの生みの親。
要するに、YMOをラテンカヴァーするとややマーティン・デニーに戻るのです。
しかも、“デジタル” “ラテン” カヴァーとなると物凄い違和感。

でもね、

そんなことどうでも良くなる程、愉しい驚きに溢れた作品なんです。
YMOファンはにくい選曲にマニア心を擽られ、そうでない人は陽気なラテンサウンドに心を踊らせるはず。
オーケストラなので音の厚みがあり聴き応えもあります。

楽曲には生演奏が中心で真っ当なラテンサウンドですが、曲と曲の間に【interlude(インタールード)】と呼ばれるブレイクタイムが設けられておりそこが素晴らしく面白い。
数十秒程度のインタールードにはセニョール・ココナッツのデジタルラテンミュージックが炸裂しています。
高速カットアップとサウンドコラージュ、機械音声による妙ちきりんな日本語。
この奇妙で愉快なインタールードはYMOの名盤『増殖』に収録されたスネークマンショーのコント挿入のような面白さと空気作りに加えて、全体のまとまりとミックステープのようなクラブ感を演出しています。
YMO愛に満ちた作品ですが、実はこのアルバムはYMOからのラブコールもあって実現しました。

セニョール・ココナッツはこのアルバム以前に同郷のドイツテクノポップユニット クラフトワークのカヴァーアルバムをリリースしています。
その日本盤のライナーにYMOメンバーの細野晴臣が「今度はYMOをラテンでやってください」と記したことがこの企画の発端だったようです。

アトム・ハートは以前から細野晴臣とユニットを組んだりもしていたためラテン × デジタルかコンセプトのセニョール・ココナッツがYMOのカヴァーをすることは自然な流れだったのかも知れません。
相思相愛で生まれた証に、なんと『Yellow Fever』にはYMOのメンバー全員がゲストで参加しています。
YMOファン必聴、裏YMO入門の一枚です。

個人的な思い出を語ると、まずジャケットに惹かれました。
当時ノイズばかり聴いていて感覚が狂いかけてた僕はポップミュージックも聴こう、と箸休め感覚でCDを買っていた時期がありました。
まず手に取ったのはフレンチポップアイドル Lioのベスト盤『Peste Of !』でした。
そこからフレンチポップにもハマり出すのですが、この『Peste Of !』と『Yellow Fever!』のジャケットが凄く似てたんです。

黄色の枠もフルーツも女性の配置も、よく考えたらタイトルの『!』も似過ぎなんですよ。
このLioのジャケットはフランスのゲイカップルアーティスト ピエール・エ・ジルによるGOODデザインなので『Yellow Fever!』はオマージュなのかも知れませんね。
Lioの『Peste Of!』の購入の直後に『Yellow Fever!』に出逢ってほぼジャケ買いだったわけです。

今の時代、ジャケットで音楽を選ぶことは少ないでしょうね。
【デジタル】配信に頼っちゃだめよ。
良い音楽は足で稼ぐものです。

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