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フリースタイルダンジョン「焚巻vs般若」戦は素人の目にどう映っていたか

2015年から始まったMCバトル番組フリースタイルダンジョンが終了するもよう。

運良く初期の頃に存在を知って見始めることができて、子供の頃から持っていたヒップホップという音楽ジャンルへの偏見を打ち砕いて価値観を変えてくれた、自分にとっては革新的な番組でした。この機会を逃すともう改めてこのことを書くタイミングもなさそうなので、書いておきます。

「焚巻vs般若」からダンジョンを見るようになった

番組が始まった当初のフリースタイルダンジョンはYoutubeで公式アーカイブ配信を行っていた。それで、Facebookのタイムラインで1st seasonのRec. 2-5「焚巻vs般若」回のYoutubeシェアが熱っぽい紹介文とともに流れてきたのを、なんとなく再生したのがダンジョンを見る最初のきっかけだった(シェアしてきた人が誰だったかはよく覚えてないけど、特別仲がいい人ではなかった記憶)。

初代ラスボスを務めたラッパー・般若が番組開始以来初めてステージに姿を現した、番組としても初期のターニングポイントとなった回だ。

素人目線で面白かったこと1. 審査員の講評

フリースタイルダンジョンはチャレンジャーとなるラッパーが、モンスターと呼ばれるラッパーをラップバトルで5人連続勝ち抜いていくことで賞金100万円をゲットできる番組だ。

フリースタイルダンジョンにはバトルの勝敗をジャッジする5名の審査員がいて、毎回バトル終了後に「つまり今のバトルは何が面白かったのか・なぜ私はこっちに軍配をあげたのか」といったことを各審査員の目線から解説してくれる。

はじめてシェアからの再生でダンジョンを見たとき、画面の中で何が起きているのか、正直全く意味が理解できなかった。が、いとうせいこうら審査員が、ラッパー両名の伝えたかったであろうことを自分のような素人視聴者にもなんとなく理解できるように噛み砕いた解説をしてくれたので、その“よくわかる解説”自体になんだか妙に感心してしまったのだった。

素人目線で面白かったこと2. サンプリング

なんで2回目を見ようと思ったのか、理由が思い出せない(当時無職で暇だったこともあると思う)が、とにかくよくわからないなりに2回目の再生をして、3回、4回……となぜか繰り返し見てしまった。

ダンジョンの番組構成は、バトルよりもその前のインタビューとか前回までのあらすじ紹介に多く時間を割くので、この回はラスボスの初登場回ということもあって特にそんな感じだった。ただ自分は全くの素人だったので、逆にそのバトル外パートも繰り返し目に入ってくることで、ダンジョンのシステムや般若という人物がラスボスである事情といったことをだんだん理解できるようになっていった。

何回か見ているうちに、バトルのビートBGMの曲名(バトル中にテロップで表示されている)が、バトルで吐き出す歌詞の中に登場していることに気がついた。どうも彼らは、バトルの開始直前に聴かされたビートの曲名を自分で判別して、即興でラップの中に、話の筋が破綻しない(どころか言葉の意味に深みを与える)ように組み込んでいるらしい。それを理解した瞬間「もしかしてなんかすごい高度なことやってないか?」という気持ちになった。これがサンプリングと呼ばれる基礎技術であることを知るのに、そう時間はかからなかった。

素人目線で面白かったこと3. バースの内容

Round 3のビートになっていたZEEBRAの『Street Dreams』原曲を聴いてみると、「俺がNo.1 HIPHOP DREAM」という歌詞が出てきて、それは般若の締めのバース(小節)にも登場していたフレーズで、「原曲の歌詞からもサンプリングしてんの!?」と衝撃を受けた。Street Dreamsはクラシック(古典)と呼ばれ、要はラッパーとしては必修の楽曲だと知った。

そういったヒップホップの教科書的な背景がだんだん理解できるようになってくると、だんだん焚巻と般若の吐き出すバースの内容に感情移入するようになり、なぜか審査員らと同じように目が潤んでいた。

バイトしながらハングリーに戦ってやっとここまで来たんだと叫ぶ焚巻に、俺はヒップホップに就職した、俺自身がヒップホップドリームだと叫び返して立ちはだかるラスボス般若。こんな人生を背負った主張と主張のぶつかり合いを見るのは初めての経験だった。

Youtubeの公式アーカイブで過去回を掘り始めると、般若以外の四天王モンスターの正体も見えてきた。“若きホープ”・T-Pablow、“人を食ったお調子者”・サイプレス上野、“強面のベテラン”・漢a.k.a.GAMI、“異能の天才”・R-指定(Creepy Nuts)。そしてラスボスに君臨する、“7年前、表舞台から突如姿を消したチャンピオン”・般若……そのチャレンジャーが勝ち抜くべき5人のモンスターの個性の組み合わせが絶妙で、あぁ、だからフリースタイルダンジョンなんだ、と腑に落ちた。いつのまにか自分もダンジョンの奈落に落ちていたようだった。

フリースタイルダンジョンから得たもの

それまでヒップホップとかラップは「怖い人がやる変な音楽」としか思っていなかった自分にとって、フリースタイルダンジョンとの出会いは、上っ面だけ捉えて抱えてきた偏見・先入観を大いに後悔させてくれるものだった。

これに近いことをダンジョン以前にも経験していて、それがアイドル。アイドルも同様に、偏見の先の面白さがあることに気づけた文化だった。そしてヒップホップの世界を掘り下げて調べると、アイドルの世界とかなり近い文脈を持っていることに気がついた。この話は本稿のテーマから逸れるので、まあ書く気が起きたらそのうち書く。

ダンジョンを経て自力でヒップホップをDigるようになってTHA BLUEHERBと出会えたことは、本当に幸運だった。この話もまたそのうち書きたくなったら書く。

あと本当に一時期自分もMCバトルに挑戦したくなってビジネスマンラップトーナメントに出場したのだけど、そのときの出来は置いとくにしても現在につながる出会いがあったので、これもヒップホップがもたらしてくれたものだった。この話はたぶん書かない。

ともかく、偏見だけで捉えないで本質を見ることができたらきっと面白い景色が見られる、ということを、先にアイドルがぼんやり示してくれていたのをヒップホップは確信に変えてくれた。だから今はなるべく色眼鏡で物事を見ない(逆に色眼鏡で見ていたら本能的にそこが沼だと理解しているのだと思う)ようになった。それは本当に「感謝、般若」としか言いようがない。

最後に一つだけ、自分の中でダンジョン史上唯一無二のベストバウトだと思っているバトルの動画を見つけたので埋め込んで本稿の締めとしたい。3rd seasonの「ダースレイダーvs崇勲」戦。

 フリースタイルダンジョン番組関係者の皆さん、こんなに面白い番組を世に出してくれて、本当にありがとうございました。HIPHOPに幸あれ。

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