清世さん企画参加「いつも、ここからがはじまり」
(何だか、ちぐはぐな所に来てしまったな)
全部、歯車が噛み合ってない、そんな気分だ。
通勤中の横断歩道の手前で、青信号が点滅し始め、走れば間に合うだろうけど……
一歩足を踏み出そうとして、やめた。
空を見上げると、どんよりとした曇り空。
それが更に気持ちを落ち込ませ、小さくため息をつく。
10年前、付き合ってた大好きな人と結婚した。
幸せなハズのあの日は何処に置いてきてしまったのだろうか。
リビングのテーブルに置かれた離婚届けに指輪。
それを思い出すと、空が余計に暗く見える気がする。
ビルに浮かぶ巨大なスクリーンに映し出された、朝の情報番組のアナウンサーが真剣な顔で話している。
(川村さん……結構好きなんだよなー、60歳だっけ?若いよなー)
「後、10秒……」
小さな声が聞こえて、思わず、ビクっと震える。
気づかれないように、そっと声のした右側を見てみる。
(女の子……裸っ?いや……かろうじて薄い布地が……いやいやいや、そこじゃなくて!足!地面から浮いてる!)
「3、2、1……ゼロ」
「えっ」
「川村さん!」
「大丈夫ですか!?」
彼はゆっくりと椅子から崩れ落ちた。
周りのアナウンサーが慌てた様子で、駆け寄る。
「川村さん!」
「おい!誰か!救急車呼んで!」
普段なら出てくる事のないスタッフの人達まで映し出される画面を見て、周囲もざわつき始めた。
「何あれ……」
「マジのヤツ?」
「大丈夫かな?」
僕だけが気づいていた。
「オマエがやったのか……」
女の子に問いかける。
「えっ?見えてる?ウソ!」
「答えろよ」
「何よ、初対面で随分エラそうね」
確かに、そこは彼女の言うとおりだ。
強く出ないと、目の前に起きた不可思議な出来事に、足がすくんでしまいそうに思ったのかもしれない。
「オマエ……死神か?」
「本当、やになっちゃう!死神って……そんな西洋風なモノを誰も彼も持ち出してくる……」
見たところ、10歳位の女の子にしか見えない彼女は、僕の思っていた死神とは少し……イヤ、随分と違っていた。
そして彼女の輪郭は透けているように見え、全体的に発光しているかの様だ。
「やっぱ、そうか……」
「そもそも違うのよ、あたしは。絶対なる死をもたらす者という訳じゃないの」
「……さっきのは」
「ただ、見えるだけ」
「何が」
「その人の魂が消えるまでの残り時間が」
「……なるほど」
「ねぇ。ついでだから、教えといたげる。アンタ、後……48日よ」
「……はっ?」
「だーかーらー!アンタの残り時間」
「なん……日だって?」
「48日」
「……ウソだろ」
「信じなくていいわ。別に私もどうもこうも出来ないんだもの。ヒマだから、外界に降りてきて、たまに、こーして見える人に会って……」
「……」
「その人の残り時間を教えたげるのよ」
「……」
「そこからが……面白いの」
「面白い?」
「うん。アンタにもきっと分かる」
「はっ。所詮他人事だもんな」
険のある言い方に、黒目がちな瞳がキラっと光る。
「ま、そりゃそーね。じゃ、素敵な人生を」
そう言うと、くるりと背を向け、そのまま雑踏へ消えた。
*
翌日。
「きょーちゃん!ごめん!お願いだから、ここ開けてよ!」
僕は今、妻の実家で必死の説得を試みている。
既に1時間。
「頑張れ、賢二くん!」
「ファイッ!」
お義父さん、お義母さんは少し離れた所から僕に向かってガッツポーズをしている。
いやいやいや。
残り時間47日なんですけど?
はぁ……
「ごめんなさい!僕が悪かった!」
「何がごめん?」
「えっ……」
「何がごめんなの?」
「……………………」
(すげぇ難しいヤツ来たっ!)
思わず、二人の方を向く。
二人は目をそらし
お義父さんはゴルフの素振りをはじめ
お義母さんは前髪を整えはじめた。
(頼りになんねぇ!)
僕は深く息を吸い込むと腹をくくった。
「正直、何が悪かったかは分からない!けど……このまま死んだら、絶対後悔する……。僕は……僕はきょーちゃんが大好きなんだ!おじいちゃんおばあちゃんになっても、一緒にいたいんです!だから……一生のお願い!」
部屋の中で、人が動く気配がして
すっとドアが開き、妻が出てきた。
「きょーちゃん!」
「けんちゃん……久しぶりに、ちゃんと大好きって言ってくれたね」
「エンダーーー!!!」
お義父さんとお義母さんが泣きながら、歌い出した。
「お父さん、お母さん、やめてよ!」
「飲もう!今日は飲もう、賢二くん!」
「今宵は宴ね〜!」
「はい……」
はぁ……全く、
死とは程遠い雰囲気でシリアスになりようがない。
まあでも、この方がいいか。
あと、47日。
もう46日か?
*
そして……その日がきた。
あれ以来、妻とは毎日色んな話をするようになった。
付き合い始めた時に戻ったみたいに、ビールを飲みながら取りとめもない事を話した。
「なんか……」
「ん?」
「付き合い始めた時に戻ったみたいね」
「うん、僕も思ってた」
妻の実家は裕福だし、僕に保険もかけてるから、金銭的な心配はない。
全てを打ち明けようとも思ったけど
恐らく、こういう話は信じないし、結構気が小さい所があるので、言わないままの方が良い気がしたからだ。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
いつも通りに一日が終わる。
そして、人生も。
僕は静かに目を閉じた。
*
ふと気づくと
僕は薄暗くてあたたかい洞窟の中にいた。
(夢……か……?)
しばらくすると、微かな光が遥か向こうへ見えた。
「アンタって本当に……アレよね」
急に背後から声がした。
「オマエっ!」
「時間がないから、手短に言うわ。あの光に向かって走りなさい。決して振り返ってはダメよ」
「はっ?」
「急いでっ!」
訳も分からず走り出す。
後ろからゴォォォと凄い音が近づいてくる。
僕は必死で走る。
もう少しで、追いつかれる。
反射的に後ろを振り向きそうになった時
「……けんちゃーん!」
声がして、僕は光の中へ飛び込んだ。
*
〜♪
スマホのアラームが鳴った。
「ん……」
二度寝をしかけて
飛び起きる。
「えっ、ええっ!?」
何だ、今の……夢?
アレっ?
死んで……ないっ?
いや、実は既に、霊体的なヤツとか……
「けんちゃーん!朝だよーっ!」
「お……おはよう」
「ゆっくりしてるけど、もう8時よ?」
「え……あ!やべっ!遅刻っ!」
慌てて家を飛び出した。
いつもの交差点で信号待ちをしていると見つけてしまった。
「何となく、会う気がしてたよ」
僕から話しかけた。
「死んでないんだけど?」
「あー……ごめんね。間違ってた。残り時間……48年だったわ」
彼女はそう答えた。
「……わざと?」
「んー……バグみたいなもんかしらね」
「どっちにしろ、良かったよ」
「で、どうだった?」
「どうって?」
「面白かったでしょ?」
これまでの48日間を振り返り僕は答える。
「そうだな……
つまらなかった、とは言えないな」
「素直じゃないわね……」
フンと彼女は鼻で笑って、人混みに消えた。
清世さんのあの伝説の企画!
第二回!
さあ皆さんもつくねと一緒に
参加してみないか?
気が向けばサポートして下さると、大層嬉しいです!頂いたサポートは私自身を笑顔にする為に、大事に大事に使わせてもらいますゆえ、以後よしなに(๑•̀ㅂ•́)و✧