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「虹がかかったその時に」の話

息子が5歳位の頃。

車に乗っている時の事。

雨が降った後で、空に虹がかかっていた。

息子が

「お母さん、見て!虹!」

と嬉しそうに言う。

「おー、ほんまじゃ!」

そして、こう続けた。

「お母さん、知っとる?虹の根元には宝箱が埋まっとるんよ!」

「え?何ソレ?」

「昨日ジェイクとネバーランドの海賊たち(ディズニーのアニメ)でやっとった!」

「えぇー!そうなんじゃ!」

「お母さん!宝箱探しに行こう!」

「おー、いーねー!行くかー!」

(わあ。喋り方がしっかりしとるから、大人と同じ感覚で接し気味だったけど……めちゃくちゃ純粋な子供みたいじゃないの……すげぇな。)


虹へ向かって車を走らせる。

生まれて初めての事だった。

「どう?虹に近付いて来たー?」

と聞くと

「ううん、まだだいぶ向こうの方にある!」

「よっしゃ、行くでー!待っとけよ、虹ー!」

(わぁー、楽しい!いつか、おっきくなった時にこの話してやるんだー。その時の反応が今から楽しみで仕方ないぜ!)

そして、無論走らせども走らせども、虹へは近付けない……

「何か……虹、全然近くに行けれん……この車じゃ無理なんかも……」  

つぶやく息子。

辺りは少し暗くなって来た……

「お母さん……今日はあきらめて帰ろう」


それからしばらくして。

夫と車に乗っている時。

また虹が出ていた。

そして夫はこう言うのだ。


「虹の根元がどうなっとるか、見てみたくない?」

「え?」

「虹が地面から出てる所見たくない?」

「え、それ本気で言っとん?」

「うん」

「おぅ……。あー、えっとな……私も虹のメカニズムについて全く詳しくないんじゃけども。恐らく光の反射によって見えてる物じゃから、今ここから見える虹のある所に行ったとして……そこには何も無いと思うんよ……」

「えっ!?そうなん?」

「残念じゃけど……そうじゃな、半分幻みたいなものと言うか……」

「えーっ……近くに行ったら、『あ!ここから虹が出とる!』って地面から出てるのが見えるんかと思った……」

「あー……そっかー。それを期待してたらガッカリするわな……えっと……ドンマイ」


昨夜、息子に先程の話をしてみた。

すると

「あの時は子供だったから……」

少し照れたように言う。

「あ、君はもう大人なん?」

「うん」

「じゃあ、二十歳は?」

「おおとな」

「なる程」

「30歳は?」

「おおおとな」

「……」


私は知らぬ間に

おおおおとな

になっていた。


昨夜、夫に先程の話をしてみた。

すると夫は

「さすがに俺もそこまでおバカじゃないよー」

夫はあのやり取りの記憶をまるまるなくしていた。


人生も、虹も

かくも儚い。




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