「そのチカラ……目覚めし時」の話
以前、ある夫婦がお客さんとしてお店にやって来た。
二人とも私の作ったアクセを気に入ってくれて、ちょこちょこ遊びに来てくれ、妻のチアキさんとはご飯を食べに行くようになった。
その当時、私は独身で、二人の纏う空気感が不思議であった。
(長い事一緒にいると、雰囲気が似てくるもんなのか……空気が……独特なんだよな……)
その時のつくねは、まだその【独特の空気】が何処から来るものか何も知らなかった……
ある日、チアキさんは
「ビジネス」
の話を始めた。
とても、熱心に、真剣に。
私は聞く事全て知らない事ばかりで、
(へぇ〜、そうなんじゃ〜)
と興味を持って聞いていた。
チアキさんは
「もし良かったらこれから時間ある?」
「ん?」
「すごい人の話が聞けるんよ〜」
「へぇ〜」
私はキレイなビルの一室に案内された。
紹介されたのは、40代半ばのエネルギッシュ、という言葉がピッタリと当てはまる短髪の男性だった。
その人は、チアキさんのしていた話をさらに掘り下げ、色々と興味をそそられる話をしてくれた。
そして……
私にもこの「ビジネス」とやらを一緒にしないか?
と言う。
チアキさんも隣で強く頷く。
「取り敢えず、妹に話をしてみます」
当時、私は家族の中で、妹に全幅の信頼を寄せていた。
その話をすると、妹の顔が曇った。
「その会社……なんて名前?」
「あー……〇〇〇〇」
会社名は言ってはならないと口止めされていたが、妹への信頼が勝った。
「やっぱり……」
「やっぱり?」
「実は……」
妹の友人がバイト先で件の会社からの勧誘を受け、かなりそれが強引だったらしく、とても恐かったとの事であった。
その瞬間、興味も何もかも雲散霧消した。
しばらくして、私は先の二人とピカピカのビルの一室で会う事になった。
「すみませんが、妹にその話をしたらめちゃ反対されて……無理っぽいです」
「会社の名前出したん?」
「出しました」
「あー……出したかー……」
残念がってはいたが、微塵も怖くなく、特に嫌な思いもせず、縁はそこで消え失せた。
しばらくして。
お店にある女性が訪れた。
会話も楽しく、すぐ仲良くなった。
そして、ある日。
「ビジネス」
の話を始めた。
(やっぱりー?)
しばらくして。
新たな女性が訪れた。
少し話して、
(楽しい人だなぁ)
と思いながら、私はある事を確信していた。
(すぅっ)
と彼女が次の会話をしようと息を吸った瞬間、私はこう告げた。
「間違ってたらごめんなさい。おねえさん……
〇〇〇〇の人じゃないです?」
彼女の顔色が変わった。
「……」
少しの沈黙の後
「分かりますか?」
「実はおねえさんで3人目なんですよ」
「えぇ?そうなんですか?」
「皆さん、雰囲気が同じで……私……すぐに分かるようになったみたいです」
おねえさんは笑ってこう言った。
「多分、また新たな刺客が来ると思いますよ」
それきり、刺客がお店に来る事はなかったが、
3人目の女性とはその後、フツーに友達になった。
【ビジネスの話を持ちかけてきた人々の特徴】
とても社交的。
会話も楽しい。
仕事もプライベートも充実している雰囲気。
目に曇りがない。
行動に迷いが無い。
曇りと迷いが無さすぎて逆に怪しい。
人間、生きてりゃ、たまに弱気になったり、落ち込んだりする事もあるけど、私は元気です的な感じで生きていくものではなかろうか……
その類の暗さの欠片も無いのはどうした事か?と疑問を抱いてしまう。
(あ!これ、きっと……新興宗教とかに依存してる人の表情に似てるんじゃわ!)
ローラとかみやぞんとかティモンディ高岸とか松岡修造とは、また違うのだ……
(朗らか四天王)
何となく理解してもらえるかと思う。
さて。
今宵、家族でスマブラをした。
一対一だと結構強いのに、三人対戦にすると
かっちゃんは大体3位。
私は大体2位。
我々は崖から落ちて、自滅も多い。
(復帰も下手くそ)
その時もかっちゃんは為す術もなく、早々に脱落した。
私と息子が残って勝負した後、画面を切り替える為に全員がAボタンを押さなければならないのだが、
「もう!早くボタン押してよ!」
と言うので
「かっちゃん、負けて怒ってるん?」
と息子。
「かっちゃんのこんなん……怒ってるうちに入らんよー、なあ?」
と話しかけるとかっちゃんは
「怒ってます!プンプンプンプン!!」
私と息子は顔を見合わせ
「かっちゃんの怒ってるはソレ位なん?」
「ショボいな……」
「ショボいって言うなー!!」
かっちゃんは迷いも曇りもない(そういや)。
かっちゃんは……
新興宗教にハマっているのだろうか?
答えは……
ノンノン。
かっちゃんは精神的なアレが神様の世界に片脚ツッコんでる状態なのだ、とそう思っている。
(かっちゃんの目はこの1/100の細さ)
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