7日間ブックカバーチャレンジ 3日目は「青銅時代」

青銅時代01

7日間ブックカバーチャレンジ 3日目は「青銅時代」(小川国夫、1974年9月10日発行、新潮社、四六判206ページ、¥680-)をご紹介します。表紙にはタイトルがないので、分かる人には分かる、分からない人には分からない本ということになってしまいます。ということで、中トビラと箱の写真を添付しました。かつて住んでいた町の隣町の駅前にあった(過日所用で立ち寄ったとき確かめたら現在もありました)大きな書店で見かけて、この本をきっかけに河出書房新社「小川国夫作品集」全6巻(1976.1.30~1975.4.15)、別巻「小川国夫論集」(1983.8.29)を読破することになりました。

「青銅時代」というタイトルは1957年、30歳のときに創刊した同人誌「青銅時代」に由来しているのですが、そのことを知ったのはずっとあとのことでした。書店で手にしたときビビッと走るものがあったのは、いま分析すると、金属器の未明期というか有史(出来事が文字に記録されるようになる時代)以前のイメージに、社会経験が未熟な自分が共鳴したのでしょう。たまたまですが、大学卒業を機に別れ別れになった仲間との微妙な感情のやりとり(当時は遠距離電話が高かったのでもっぱら手紙かハガキでしたよね)が、小説の一部と重なるものがあったので、忘れられない一冊となっています。

1行40文字×15行、実質198ページに収まっているのは、著者自身の出身地・藤枝を舞台にした私小説風(わたし語り)の静かな物語です。「虫の声って淋しいのかしら、賑かなのかしら」の彼女が言い、〈わたし〉が口笛を吹くシーンなど、何度か鉄道の駅が出てきます。現代風の2階建てでエスカレーターで上り下りするガラス張りではなく、駅前は砂利の広場、木造の待合室、改札を抜けて向こうのホームに踏切を越えて行く。そんな駅舎じゃないと、景色が成り立ちません。

筆者が後書で「書き始めるとすぐに、それまで考えていたことは崩れていった。つまり、自身の青春を照らし返すということではなくて、私ではない或る青年の話になっていった」と記すように、物語とは筆者の企図に反して動き始めて本当の物語になる、しかし「生かすことができたのは、自分の青春の気分だといっていい」という言葉が実感できる今日このごろ。まだ「青春の気分」を表現し切れていないとも思ったりします。

青銅時代

ブックカバー 3


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