本音は「人月型SIビジネスに見切り」だけじゃない─“意外に奥が深い15ページ”が示すもの 「DXレポート2.1」の真意を読み解く(2)

デジタルケイパビリティ─デジタル産業に到達する要件

 DXレポート2.1で打ち出された、2軸構造ではない視点とは何か。事業のスタートはどうであれ、Web/クラウドベースのアプリケーションサービスを活用して業態を変革し、同業者や取引先とデジタル・データを共有することで新しい価値や市場を創出していく。あるいはそのシステムを外販したり、サブスクリプションで利用させる。あるいは複数のクラウドサービスを組み合わせて最適化する──といったことだ。

 「DX=クラウド」ではないことは、DXレポートを編集した「デジタル産業の創出に向けた研究会」の面々は百も承知している。「個社のDXが進んだその先にデジタル産業がある」という位置づけと解釈してまず間違いはない。DXレポート2.1はデジタル化の未来予想図、その入り口であるかもしれない。

図2:デジタル産業を構成する企業の姿(「DXレポート2.1」)

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 そこには既存のユーザーやベンダーが「デジタル産業」に到達する要件が示されている(図2)。何度も登場するキーワードは「デジタルケイパビリティ(Digital Capability)」だ。直訳するとデジタル能力で、個人に対してではなく、組織について使われる。

 つまり、デジタルケイパビリティとは、組織としてデジタル化を推進し、デジタルを活用する能力のことだ。さまざまな解説に共通するのは、社会・経済のデジタル化を前提とし、ビジョン、事業創出、実践、アーキテクチャ/デザイン、組織マネジメントなどの能力である。筆者のように横文字に弱い向きには、「分かったような分からないような……」が実感ではあるまいか。

 具体的に見ていくと、こうなる。

①他社のクラウドサービスを使っているが、自社の業態は従前と同じ
②クラウドの利活用で業務や事業価値を改革しているが、社内に閉じている
③業務改革や価値創出のバリューチェーンに参加または他社を巻き込んでいる
④市場ないし顧客からのデジタル化されたフィードバックを活用して自社の業務や事業価値を再生産している

 このうち①と②は旧来の延長線上にあって、「IT化/デジタル化」と違わない。③、④がデジタル産業の範疇で、「労働量や資本力に依存せず、所在地に左右されないグローバルなスケールでの価値創造が可能」となる──。これで、DXレポート2.1におけるデジタルケイパビリティの指す内容が見えてきただろうか。

目玉は「デジタル産業」の具体的な指標

 2018年9月のDXレポート初版、それに続く2020年12月のDXレポート2(中間取りまとめ)(関連記事:経産省が「2025年の崖」対策の第2弾を発表─「DX銘柄」と「デジタルガバナンス・コード」を読み解く)、2021年1月の「デジタル市場に関するディスカッションペーパー」(デカップリングとリバンドリング、関連記事:「DXレポート2」に書かれなかったこと─経産省の真意を深読みする)、そして今回のDXレポート2.1と、この3年間で経産省はDXと「2025年の崖」で波紋を起こし、その発展形としてデジタル産業にたどり着いた。補助金や助成制度など政策ありきではないのが特徴といってよい。

 図3は「デジタル産業」の概念的な構造を描いたもの、図4は「デジタル産業」企業の類型をまとめたものだ。このほか、DXレポート2.1では「デジタル産業と既存ITベンダーとの対比」(表1)を載せていて、それはそれで興味深い。この表1は既存のユーザーと受託型ITベンダーの関係を「低位安定」と見切った関係で、対比させてみたくなったのに違いない。

図3:デジタル産業の構造(出所:「DXレポート2.1」)

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図4:デジタル産業業の類型(出所:同上)

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表1:既存ITベンダーとデジタル産業の対比(出所:同上)

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 また、図5は、デジタル産業化したITベンダーの類型にかかる仮説である。表1を参照しながら図3、図4、図5を眺めると、いっそうの理解が進むだろう。

図5:デジタル産業化の4類型(仮説)(出所:同上)

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 今後の施策では、当然ながら、デジタル産業企業の類型や要件を細分化し、DXの進捗度を自己評価するための「DX推進指標」と同じように、自社がどの程度「デジタル産業」に移行しているかを自己評価する指標の策定が想定される。

 また、デジタルケイパビリティを高めるには、事業者の中に推進役、実行役が必要となるので、IPA(情報処理推進機構)などを窓口とするデジタル人材育成策および資格制度のようなものがあって然るべきだろう。

 もう1つ気がつくのは、「DXの加速に向けた研究会」が今年5月に再編され、「半導体・デジタル産業戦略検討会議」となったことだ。同会議が打ち出したのが経済安全保障、デジタル安全保障を指向する「クオリティクラウド」だったのは既報のとおりである(関連記事:経産省が次世代IT基盤「クオリティクラウド」に照準─コロナ禍で急浮上した経済/IT安保の視点)。大規模クラウドへの依存度が過剰に高くなると、新しいブラックボックスが発生する。クラウドのシステム障害が重大な被害を誘発することになりかねない。

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