『1+1=1』問題
『1+1=1』問題という言葉を聞いたことがあるだろうか?
ない? そうだろう。私がつくった言葉だからだ。
これは、『1+1=1』ではないことを証明するという類いの話ではない。今の若者が『1+1=1』と信じてしまうという危機的な問題なのだ。
本日はこの問題について話をしよう。
私は建設現場で働いているのだが、若手技術者の口から「1+1=1です」という報告をしばしば耳にする。
そんな馬鹿な!
そう思うのは無理もない。小学生でもわかるこの計算を一流大学出身の技術者が、こんな簡単な計算を間違うはずがないからだ。
もちろん、本当に「1+1=1です」と言っているわけではない。しかし、ほとんどそれに近い発言をなんの躊躇もなく若手技術者が口にするのである。
ここからは、20代の若手土木技術者はクローズしていただいて結構だ。説教じみた話や耳が痛い話が出てくるかもしれないからだ。
以下に、私の経験を踏まえて実例を挙げて説明していく。
心の準備はいいかな。それでは行ってみよう!
【事例1】 測量の間違い
私は現場を回っているとき、測量の丁張りやトンボが目に入ると、極力チェックすることにしている。もちろん、測量機械を使ってチェックするのではなく、見た目やスケールで測る程度の簡易的なチェックだ。そんな時に「これは間違っている」と感じると、その測量した担当に声を掛けるのである。
私 :「この丁張り間違ってない?」
担当:「いえ、間違っていません」
私 :「でも、ここ通りが通っていないよ」
担当:「間違うはずがありません。測量機械でその位置を出しました」
私 :「ここは直線だよね。だからこの丁張りは4つとも通りが通ってないとおかしいよね。図面見た?」
担当:「直線かどうかは知りませんが、測量機械が誘導してくれたので間違いありません」
結局、その測量は間違っていて、測量機械で指定する点が間違っていたことが理由であった。測量担当は2年目の若手職員だったが、もう1年近く測量をしていて初心者というわけでもなかった。
彼は、間違いがわかったあとも「機械のせいだ」と言わんばかりの不満顔であった。
特に、測量で今怖いのは、測量機械にプログラムが組み込まれていて、オートマティックに(ボタン一つで)位置出しをしてくれることだ。昔のように、現場で関数電卓をたたいて距離と角度から計算しなくていいのである。
測量技術とは何なんだ、と考えさせられた。
【事例2】 図面の誤認
ある日、現場担当者から「切土の肩の位置が合いません」と困った顔で相談された。現地を見に行くと、切土の切り出しの位置を示す丁張りが施工済みの桝と干渉していた。切土の丁張りを掛けたのは測量屋さんで、施工済みの桝の位置を出したのがその担当だった。
図面を調べると切土の丁張りは間違っていない。桝の位置が間違っている可能性が高いと思った私は、担当に尋ねた。
私 :「この桝の位置、間違ってない?」
担当:「間違っていません。何度も確認しました」
私 :「そもそも、この桝の位置をどうやって出したの?」
担当:「CAD図面を測って出しました。だから絶対間違いありません」
私 :「どの図面をCADで測ったの?」
担当:「平面図です」
私 :「それが間違いだよ。平面図から距離を追っちゃダメだよ」
担当:「どうしてですか? 図面が間違っているんですか? 図面が間違っていたら何を信じればいいんですか?」
私 :「いや、図面が間違っているわけではない。図面で距離を追っていいのは寸法が明示されている部分だけだよ。平面図に桝は描いてあるけど寸法は出てないでしょ?」
担当:「寸法は出てないけど、CADで測れるじゃないですか。図面が違うなんておかしいですよ」
彼もまた、不満顔で納得がいっていないようだった。
そもそも道路造成の測量は寸法の記載がある断面図から追っていくのが正解で、平板測量で大まかに描かれた平面図は正確性に欠ける(寸法が記載されていれば別だが)。しかし、CADという便利なものがあるがゆえにその寸法を測ってしまうのだろう。
【事例3】 Excelの計算違い
ある若手職員に、勉強のために部材の応力照査の計算をやらせてみた。そうすると、とんでもない計算結果を持ってきた。
私 :「このコンクリートに発生する応力、おかしくない?」
若手:「えっ! ちゃんと計算しましたが」
私 :「でも、普通に考えたらこんな大きな応力ありえないでしょ。コンクリートの設計基準強度は?」
若手:「24N/mm2です」
私 :「だよね。この結果、2オーダー大きいよ。これが正解ならもうとっくに現場で壊れてるよ」
若手:「ちゃんと、Excelで計算したんですけど・・・・・・」
Excelの計算を確認させると、コンクリートのヤング係数の桁を間違っていた。単純な計算間違いである。
【事例4】 水量計の目詰まり
トンネル工事において、私は若手職員にトンネルからの湧水を毎週測定させている。測定方法はいたって簡単で、作業開始前の朝一番に坑口の水槽に流れ込む湧水を1分間測定するだけだ。その時の現場では約900L/minの湧水が確認されていた。
トンネルからの湧水はそのままでは河川に放流できないため、濁水処理設備できれいにするのであるが、その濁水処理の日報を見て驚き、3年目の担当者に尋ねた。
私 :「この日報の処理水量は合ってる?」
担当:「もちろん合ってますよ。なんかありました?」
私 :「この処理水量が22m3/hって、少なすぎない? トンネルの湧水量知ってるよね」
担当:「知ってますけど、最近雨が降ってなくて湧水が減っているからでしょう」
私 :「雨が降ってないからって、減ってるのはわずかだよ。トンネルから今、湧水どんだけ出てると思ってるの?」
担当:「・・・・・・」(←知っていると言うのに数値を言わない)
私 :「900L/minだよ。換算すると54 m3/hだよ。」
担当:「でも、濁水処理設備の水量計で測ってるからそっちの方が正確ですよ」
私 :「いくら水量計が正確だからといって倍以上違うってことはないだろ! 残りの半分の水はどこ行ったの?」
担当:「それは・・・・・・」
私 :「もし、トンネル湧水が半分以上漏れていて処理されずに垂れ流しとなっていたら大変なことだぞ!」
トンネルの濁水を垂れ流していたら、法違反で私の手が後ろに回ってしまう。この危機感のない若手職員の反応に私は半分キレ気味だった。(笑)
調査した結果、水量計が目詰まりしていて、正確に水量を計れていなかったことが原因で、目詰まりを掃除したら問題なかった。
私はホッとした。
【最後に】
おわかりいただけただろうか。
上記4つの事例は、全て若手職員があまりにも機械やコンピューターを信じすぎたことが問題だ。しかも、「絶対間違いありません!」と言い切るのがすごい。
今の現場には、コンピューター内蔵の測量機械、CAD、Excelなど、昔はなかった便利な機器が溢れている。生産性向上に欠かせないものばかりだ。だからこそ、これらの便利な機器を使うときは要注意だ。
彼らは、もし計算機が壊れていて「1+1=1」という計算結果がでたら、こう言うのであろう。
「1+1=1です。だって計算機で計算したのですから」
以上が「1+1=1」問題だ。
最近は、なんでもかんでも便利になった。それはよいことだが、過信してはならないのである。
もちろん、若手職員が悪いわけではない。機械の使い方やチェック方法を指導していない我々世代が悪いのだ。
だがしかし、だがしかしである。
あまりにも現実を見ていないのではないかといいたくもなる。
事例1では、現場で一目見ただけで測量間違いに気づくではないか。それでも測量機械を信じるのか?
事例2では、CADが正解だとして、現場で起こっていることが嘘とでもいうのか?
事例3では、もしその応力が本当なら現場は壊れている。血相を変えて報告に来るレベルのことではないのか?
事例4では、毎週湧水を計っているのに、濁水処理の担当者として処理水量との整合性を確認したくならないのか?
せっかく現場にいるのに現場をよく見ずに何が管理だ。現場で起こっていることが、真実そのものなのだ。現場と計算の乖離にもっと敏感となり、機械やコンピューターを過信することなくチェックにチェックを重ねることが必要であるはずだ。
若手職員といえども、給料をもらっている以上プロだ。自分の職務に責任を持ってほしい。
と、ここまで若手技術者をディスるようなことばかり書いて申し訳ない。いつの時代も「今の若い者は」と言われてきたのだ。もちろん、私もその口である。
昔は先輩方の厳しい指導で早期に成長できた。しかし、今はパワハラだの働き方改革だので、指導する機会が大きく減っている。私にできることは、こういう場で若手技術者に問題提起をすることくらいだ。
ここまでこの記事を読んでくれた若手土木技術者がいたなら感謝する。余計なお世話だとわかっているが、私は、今の若手に成長してもらいたいと本気で願っている。
私なりの若手技術者へのエールだと思ってもらえれば幸いである。
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