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Norwegian Woodの村上春樹さんの「Knowing She Would」説を軽く否定する

 この、Norwegian Woodというタイトルに関してはもうひとつ興味深い説がある。ジョージ・ハリスンのマネージメントをしているオフィスに勤めているあるアメリカ人女性から「本人から聞いた話」として、ニューヨークのパーティーで教えてもらった話だ。「Norwegian Woodというのは本当のタイトルじゃなかったの。最初のタイトルは"Knowing She Would"というものだったの。歌詞の前後を考えたら、その意味はわかるわよね?(つまり、"Isn't it good, knowing she would?" 彼女がやらせてくれるってわかっているのは素敵だよな、ということだ)でもね、レコード会社はそんなアンモラルな文句は録音できないってクレームをつけたわけ。ほら、当時はまだそういう規制が厳しかったから。そこでジョン・レノンは即席で、Knowing She Wouldを語呂合わせでNorwegian Woodに変えちゃったわけ。そうしたら何がなんだかかわかんないじゃない。タイトル自体、一種の冗談みたいなものだったわけ」。

村上春樹『ノルウェイの木をみて森を見ず』(新潮文庫『雑文集』収録)

Norwegian Woodではわりと有名な、村上春樹さんの説について。これについては村上春樹さんも「真偽の程はともかく」と書いているので、いちいち否定するのも野暮だなぁ…とは思うのですが、この説について自分はかなり懐疑的なので書いておくことにします。

ちなみにこの話、ウィキペディアにも記載されていて、ゴシップ性の高さからか海外でも有名っぽいですね。同じ文脈のままタイトル変更を行ったのはブライアン・エプスタインだとする説もあるようです。英国の放送コードに引っかかるのを避けるために変更案としてブライアン・エプスタインが提案したのだとか。ブライアン・エプスタイン説は海外で出回っている話ですが、どういう経緯で発生したのかを追うのはさすがに無理なので、こんな話もあるよ程度で軽く受け止めておいて大丈夫です。どちらにせよまとめて否定するので。

さて、自分がなぜこの説に懐疑的なのかというと、ジョン・レノン本人が1980年のプレイボーイ誌のインタビューで「どうして "Norwegian Wood" という言葉を思い付いたかわからない」と答えていて、それと合わせて考えると辻褄が合わないんですよね。
他人に話せるくらいの「わりと強めのエピソード」を普通は忘れないんじゃない?ってのは当然の疑問としてあるし、金を貰って答えるインタビューでは忘れてしまって、どこぞのよくわからないオフィススタッフの前では鮮明な記憶で本当の事を話したというのを信じろというのはさすがに無理があります。普通に考えると、金を貰って答えるインタビューでこそ本当の話をするんじゃないでしょうか。

そもそも"Knowing she would"の話には、腑に落ちないところがあるんですよ。最初のタイトルがKnowing She WouldでそれがNorwegian Woodに変わったという話ですが、レコーディングのテイク1時点のタイトルは「This Bird Has Flown」です(歌詞はテイク1からNorwegian Wood)。それから9日経ってテイク3のレコーディングでようやく「Norwegian Wood(This Bird Has Flown)」に改題されたという変遷が記録にあるので、タイトルがKnowing She WouldからNorwegian Woodに変わったという話は、実際の記録と合っていないことになります。仮にそういうやり取りがあったとしたら、副題に残ってるThis Bird Has Flownに戻そうかとなるのが普通です。

また、ボツ歌詞を元にして語呂合わせなり押韻なりをするだろうかという疑問もあります。使わない歌詞をベースに語呂合わせをするのは全く意味がないし、全体の中で意味が通っているKnowing she wouldという歌詞を、歌詞の中でもある種の異質さを持つ"Norwegian Wood" という単語に変えるというのも違和感を感じます。"Norwegian Wood"という単語の魅力は曲の中で実際に歌った時の響きがあってこそだと思うので、少なくとも作詞段階ではしっかりと意味が通るKnowing she wouldよりも劣っているとも感じられます。そのようなアイデアをビートルズが採用するというのは正直あまり想像ができないんですよね。

そういうわけで自分はこの話に信憑性を感じていませんが、仮にこのオフィススタッフが嘘をついてないということであれば、"Knowing she would"の話はジョン・レノンがオフィススタッフ相手に飛ばしたセクハラジョークではないか?ということは考えられるかもですね。Norwegian Woodを元に即興で韻を踏んでKnowing she wouldが出るのはおかしくはないし、そういったジョークを言うというのは、自分の中のジョン・レノン像と照らし合わせてもあまり違和感はありません。もちろん勝手な想像です。

勝手な想像を長々と書いても仕方ないんでこの程度にしておきますが、どんな立場の人から出た話であろうと実際の状況と違うのであればそのまま信用するわけにはいかないんですよ。ジョージ・ハリスンのマネージメントオフィスのスタッフという絶妙な関係性の遠さも「作り話あるある」の定番じゃないか?とか、疑いだしたらキリがないです。

まあビートルズには、このような噂話レベルのものはうんざりするくらい存在するので、これもそのうちの一つなんじゃないんでしょうかね。少なくともウィキペディアに載せるほどの信ぴょう性のある話ではないという印象です。

※タイトル画像はNorwegian Woodの歌詞の最後あたりを元にadobe fireflyで生成したAI画像です。

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