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オーガニック植木屋の庭づくり―はじめに

庭に出てみよう!
 庭はもっとも暮らしに近い身近な自然。しかし、その庭が、多くの家庭で「お荷物」になっているのを、私たちは目の当たりにしてきた。親の代からの和風の庭、イングリッシュガーデンがはやったときに力を入れてつくった庭、そもそもスペースをつくったはいいけれど何をしていいか皆目見当つかず、放置されたままになっている庭……。それらは、雑草だらけになっていたり、不用品置き場になっていたりと悲惨な状況だった。

 日本の国土は狭い。そんな狭い日本にあって、庭のスペースがあるということは、とてもラッキーなことだと思う。せっかくだったらそんなスペースを多くの人に楽しんでもらいたい。そのためには、何が必要かと考えてみたら、「使いやすい」ということだった。水場が地面の蓋を開け閉めして使う散水栓しかなく、バックヤード(裏庭)もない日本では、肥料や用土がビニール袋に入ったまま、庭の隅に積み上げられる。使わない植木鉢も野ざらしのままだ。花壇はしゃがまないと手入れもできず、足腰が弱ってくると、とたんにガーデニングが苦行になる。

 そのような悩みを解決し、家の中とは違う開放されたスペースとして、庭を存分に楽しんでもらいたい。本書ではそんな庭のつくり方、使い方を実例とともに紹介する。

 もうひとつ、数々の大震災や毎年のように発生する類例のない災害を経て、私たちは暮らしの中に、「いざというときに備える」という意識をもたなければならなくなった。庭づくりを生業とする私たちへの依頼も「雨水タンクを設置しておきたい」「菜園をつくってほしい」などというものが増えてきた。いざとなったら、自分が頼るべきところは、自給や循環、自然の恵みかもしれない……と、気づき始めた人が多かったのではないだろうか。

 一方で、それら「人の役に立つ」ことだけが庭の意味ではない。庭は地球の一部なのである。この地球上に最初の生命が誕生して以来、約40億年の時間をかけて、生命は分化し、進化を重ね、多様な生命圏と自然環境を形づくってきた。その最初の生命が誕生した奇跡を、この地球上のすべての生命が分かち合っている。庭の植物や虫や小鳥、そして人間もひとつの同じ祖先からその命を引き継いでいるのだ。多様な生命はともに進化してきた。植物の葉と人間の肺はともに進化してきたことにより二酸化炭素と酸素をやりとりすることができる。道端の雑草でさえ、その小さな葉で私たちのために酸素をつくり出してくれている。

 多様な生命と環境が有機的につながることで生態系は形づくられている。庭でも有機的なつながりを大切にすること、そして有機的なつながりを断ち切るようなものを持ち込まないこと、それがオーガニック・ガーデンの基本的な条件になる。

 ここで私たちが言うオーガニックとは、「無農薬・無化学肥料」「有機栽培」という意味だけでなく、「有機的なつながり」という意味も含んでいる。

 日ごろから使いやすい庭で地域の生態系を守るとともに、自然の力を活かし、誰もが安心・安全で、いざというときには人々の命をつないでいける─そんな地球環境の視点に立ったオーガニックな庭のデザインを提案したいという思いで、私たちは庭づくりをしている。

 地球は長い時間をかけて、多様な生命が棲めるような環境になってきた。青い地球だから生物が育まれたのではなく、生物の活動があったからこそ地球は青いのだ。つまり、みんなが嫌がる雑草や菌や虫たちは、青い地球をつくってくれた一員なのだ。

 地球は人間だけの「モノ」ではない。もっと地球の声を聞きながら、地球に負荷がかからない暮らし方をつくっていきたいし、そういう気持ちになれば、地球はたくさんの恵みを私たちに与えてくれるはずだ。

 そう考えるとき、庭は自然の奇跡の詰まった一番身近な場所。そんな多様性のある使いやすい庭や公園が、この地球上にたくさん増えれば、人々の心身の癒しとなり、気候の調整や生態系の保全にもなり、災害時の備えとなり、地域の景観も保たれ、それは地球全体の環境をも守ることにつながるのだ。


 本書は時として、一見、庭の話から逸れているように見えるところもあるかもしれない。だがそれは、私たちが単に無農薬、無化学肥料のオーガニックを提唱しているのではなく、「生き方としてのオーガニック」を創造していきたいと心から思っているからだ。そこをご理解いただければと思う。

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