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もっと菌根の世界―はじめに(齋藤雅典)

地球の温暖化が進行し、世界各地で砂漠化や土壌劣化など環境の悪化が深刻になっている。それとともに、生物多様性の保全や環境にやさしい農林業への人々の関心が高まっている。今まであまり注目されてこなかった土の中における植物と微生物の共生「菌根(きんこん)」への関心も少しずつ高まっているように思える。

陸上の植物種数は30万種を超えるとも言われているが、その陸上植物の8割以上の種では、菌根菌という菌類(カビの仲間)が根に共生していて植物の生育を助けている。根に棲む菌根菌は植物から光合成産物を受け取る代わりに土から養分を吸収し、それを植物へ供給している。菌根菌と植物は、養分のやりとりを通して、相互に持ちつ持たれつの共生関係にある。しかし、共生とはいっても、その内容は多様である。菌の種類も植物の種類も多様であるし、お互いに持ちつ持たれつの相利的な関係もあるが、中には、まるで植物に寄生しているかのような菌根菌もいる。かと思えば、菌根菌に栄養を依存してしまっている植物もいる。

このような多様な菌根の世界について解説した『菌根の世界──菌と植物のきってもきれない関係』を2020年に出版した。幸いにして、多くの方々にご好評をいただき、刷を重ねてきた。そこで本書では、前書では取り上げることのできなかったエリコイド(ツツジ型)菌根の章を加え、また、菌根の分野で国内外の研究をリードする研究者に、「知られざる根圏のパートナーシップ」を探るために、どのように、またどのような思いで研究を進めてきたか、苦労話も含めて、書いてもらった。かなり専門的な内容も含んでいるので難しい部分もあるかもしれない。一般読者向けにできるだけわかりやすく記述してもらったつもりだが、至らない部分はすべて編者の責任である。

各章はそれぞれのトピックで独立しているので、必ずしも章順に読む必要はなく、関心のある章からページをめくっていただいて差し支えない。なお、この本ではじめて菌根について触れられる読者の方々のために、序章では、さまざまな菌根の概要を説明した。前書と重複する部分も多々あるが、どうかご了承いただきたい。本書を通じて、菌根という共生の世界の面白さを知って関心をもっていただければ幸いである。

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