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ゴールキーパーと校正者が似ているって本当?実際対談して聞いてみた

校正を仕事にしている人や校正に興味がある人なら、「ゴールキーパーと校正者は似ている」という話を聞いたことがあるかもしれません。

さまざまな記事や本でもそのように書かれています。

校正、校閲とは、いわば著者や編集者の仕事をさらにブラッシュアップする業務であり、コンテンツ制作において「守護神」「最後の門番」「ゴールキーパー」などと表現されることもあります。文章力はもちろん、幅広い教養、法令の知識なども必要な頭脳労働です。

「校正、校閲とは何か?その違いや役割と重要性を解説」図書印刷株式会社

校正は減点方式の仕事だといわれます。新聞の校閲記者は「サッカーに例えるとゴールキーパー」と表現しています。「『0点に抑える』ことが至上命令」で「99回横っ跳びでスーパーセーブをしようとも、たった1本シュートを入れられたら、キーパーにとっては『負け』」なのだと。

『文にあたる』牟田郁子

私もそう実感しているのですが、ふと気づきました。

「似ているという話は聞くけれど、実際ゴールキーパーと校正者がそれぞれの役割について話したことってないんじゃない?」
「やってみたらおもしろいかも?」

ということで、校正ラボで実際ゴールキーパーの方と対談することにしたのです。

そう思い立ち、「さて、どなたにお願いしようかな」と考えたときに真っ先に思い浮かんだのが木村敦志さんでした。

実は私はガンバ大阪のサポーター。サッカー観戦が好きで、以前大阪に住んでいた頃はよく万博記念競技場に足を運んでいました。

ゴールキーパーの方をお呼びするなら、自分が応援していた人がいい。そう思って木村さんにお願いしたところ、快諾していただけました。


校正ラボメンバー限定での配信でしたが、「メンバーじゃないと見られないの?」「内容が気になる」という声もいただきましたので、一部だけ記事化して公開することにしました。

特に「ゴールキーパーと校正者の共通点」を抜粋してお届けします。

▼ 木村敦志さん プロフィール

大阪府茨木市出身の元プロサッカー選手。ポジションはゴールキーパー。
U-17〜U-21日本代表。ガンバ大阪一筋12年。タイトル獲得9回。

2014年に引退し現在は飲食店の経営などしつつ、GKコーチやパーソナルメンタルコーチとしても活躍中。
X(旧Twitter):@achu501k


類は友を呼ぶ

校正者のコミュニティを運営したりオフ会を開催したりして思うのは、「校正を仕事にしている人は皆どこか似ている」ということ。

「もの静かで控えめ」「じっくり思考することが好き」「大勢でわいわい楽しむよりも少ない人数で話すほうが好き」といった人が比較的多いように思います。でもただ静かなのではなく「情熱を内に秘めている人」が多いんですよね。

やはりゴールキーパーも似た感じの人が集まっているのではと思い、聞いてみました。

ーーチームの中でもゴールキーパーは特殊なポジションだと思うんですが、そんなゴールキーパーを選ぶ人たちの共通点はありますか?

「僕が見ている感じだと、変わった人が多いです。ほかのポジションの選手からも言われます。先輩や後輩を見ていても『変わっているなぁ』と思うんですが、きっと僕もそう思われているんでしょうね(笑)」

ーーやっぱり似た人が集まるんですね(笑)

受け身の中にも積極性を

ーーゴールキーパーも校正者も基本受け身だと思うんですよ。

「そうですね。きたことに対してどう対処するかというのが基本なので」

ーー校正者も受け身なんですけど、その中でも積極性を出すことも大事なんじゃないかと思うんです。もちろん媒体やクライアントにもよりますが、少し踏み込んだご提案をすることも時には必要なのかなと。

「ゴールキーパーも自分からっていうのはあまり多くはないんですけど、シュートを打つ選手にプレッシャーをかけることでシュートコースを限定するなど、自分からアクションを起こす場面はありましたね。そのあたりは共通しているかもしれません」

時代の変化に適応していくことが生き残る道

「昔はゴールキーパーは完全に“守る”ポジションだったんですけど、今は“攻撃の起点”として自分からというのが大事になってきていますね」

ーーじゃあ、昔の考えの人が「ゴールキーパーが攻撃をしかけるようなことはするもんじゃない」とか言うこともあるんですか?

「そうです。ビルドアップ※するな、とか。あいつ蹴るのうまいから渡しとけ、とか。そんな時代もありました。今はボールをとったら優先順位を考えて一番いいところに出す。攻撃の第一歩になるようにと言われることが多いですね。自分が起点となってゴールが決まるのはうれしいです」

※ビルドアップ  後ろから細かいパスをつないで攻撃していくこと

ーーそうやって変化してきているんですね。校正も昔からある仕事で変えてはいけないところもありますが、紙の原稿だけではなくなっています。書籍校正でもパソコンやタブレットを使って作業することが増えている。そういう変化には適応していかないといけないなと思っています。

「ゴールキーパーもですね。ゴールキーパーは基本的に手を使うんですが、足もとの技術、ボールを蹴る技術も要求されるようになってきました。そこができないと今は使ってもらえないということもあるので、そういう練習も増えています。その時代のサッカーに合わせて、ゴールキーパーもやることがちょっとずつ変わってきているというところはありますね」

受け入れつつ自分のやるべきことをする

ーー木村さんが現役時代の頃のガンバ大阪って攻撃的なサッカーだったじゃないですか。3−0で勝っていたとしても、守りに入ることなく4点目をとりにいく。失点してもそれ以上得点すればいいんだというような。

「そうですね。3点とられても5点とればいいという戦い方でした」

ーーそれって、ゴールキーパーとしては複雑じゃないかと気になっていたんです。

「ゴールキーパーとしては『3点とられてもいいから』というやり方だとちょっと…(笑)こっちとしてはどうやって0点に抑えられるかを考えているので」

ーーゴールキーパーとしては0点に抑えたいですよね。いくら試合に勝ったとしても、ゴールキーパーとしては失点しているの気になるところかなと。

「そうですね。0点だったら負けることはないし勝つ確率が上がるので。0点に抑えようとこだわっているゴールキーパーが多いです」

ーーそれがゴールキーパーの役目ですもんね。

「攻撃優先だとゴールキーパーはやることが増えるというか、どうしてもピンチになる時間が増えてしまいます。攻撃的なサッカーだとどうしても守備が甘くなってしまうんですが……そういうやり方なら仕方ないです」

ーー受け入れつつ、自分ができることをする、と。

「そうですね」



時折ある超特急案件(原稿を渡されて1時間後に納品、など)では、「誤字脱字だけをチェックしてください。納品時間厳守で」といったことがあります。

とはいえ、普段の校正だとさまざまなポイントでチェックしていくので「誤字脱字だけを拾う」というのがなかなかに難しい。ついつい「この固有名詞は正しい?」「この数字の根拠はどこ?」「本当に赤いドアなの?窓枠は黄色で合ってる?」と気になってしまいます。

しかし今回挙げた例の場合、自分が求められていることは「誤字脱字のチェック」と「指定時間までの納品」。何かプラスで気になるところがあったとしても、それは求められている2つのことができていることが大前提なのです。

受け入れつつ、まずは自分ができることをする。

校正とは関係ない、ただ私自身が聞きたかったことだったのですが、ここにも共通点がありました。

最後に

ゴールキーパーの木村さんと対談した結果、やはり校正者と似ているところが多いことがわかりました。

この記事では「共通点」を主に取り上げましたが、ほかにも集中力の保ち方やミスをしたときの切り替え方などいろいろなことをお話しいただいています。

校正ラボのメンバーの方は、アーカイブが残っていますので、ぜひご覧くださいね。

何か皆さんの今後のヒントになるようなことが、一つでも見つかったらいいなと思います。

木村さん、ありがとうございました!


校正ラボでは、定期的にゲストをお招きした講座を開催しています。

校正を仕事にしたい人、校正の仕事をしている人のためのオンラインコミュニティ「校正ラボ」の詳細が気になる方は、以下をご覧ください。
https://kousei-labo.com/


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