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ラブホのライター

風が強くてたばこに火がつかなかった。
ただ壊れていただけかもしれない。

すると見かねた同僚が色褪せたイエローのようなオレンジのような少しレトロなライターを貸してくれた。

「かわいい!ありがとう!
 ロゴが入ってるね?どっかのブランド?」

たばこに火をつけて返す間に意外な答えが返ってきた。

「それラブホのライター!
 Kくんからもらったの!
 わたしもうひとつ違うの持ってるからあげる!」

待って。仕事の合間の昼下がりにすごいパンチワード。
Kくんとは同じく同僚である。そして既婚者。

うそーKラブホ行ったのかな?なんてきゃっきゃして話していると、どうやらサーフ仲間からまわってきたものらしい。

そして誰かに渡すときは必ずみんなこう言うらしい。

「俺のじゃない。」

もらってから気付いたけど知ってる人にはロゴでラブホだとバレるわけで、見ず知らずの人にだってこの子ラブホ行ったんだななんて思われるかもしれない。
想像するだけでも恥ずかしい。

なんて厄介なものをもらってしまったんだ。

それにしてもいったい何人の手を渡ってきたのだろう。
いろんな人の火のサポートをしてるのに、ちょっとロゴが入ってるせいで、すぐ人にあげられがちな損な役回り。

健気なやつめ。
カタカナのロゴがきらりと光った気がした。
巡り巡っていま手の中にいるのかと思うとだんだん愛おしくもあった。

でもいつか誰かに渡すとき、きっと私ははっきりとこう言うのだ。

「わたしのじゃない。」




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