今夜、月のうら側で

小説家の下積みをしながら、思ったことをつらつらとメモしています。『正しさを追求することによる自滅』をどのようにして防ぐのか、を主に考えています。ポリコレやフェミニズム、社会格差などがテーマです。 【経歴】⇒『2022 小説すばる新人賞 最終選考』『2023 京都文学賞 最終選考』

今夜、月のうら側で

小説家の下積みをしながら、思ったことをつらつらとメモしています。『正しさを追求することによる自滅』をどのようにして防ぐのか、を主に考えています。ポリコレやフェミニズム、社会格差などがテーマです。 【経歴】⇒『2022 小説すばる新人賞 最終選考』『2023 京都文学賞 最終選考』

最近の記事

#29 "書店のウラ"「本屋大賞はこれでいいのか」

 先日、本屋大賞が発表されました。受賞は、宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りに行く』でした。  自分は現在、某書店で働いています。この記事を読んでいただくに伴いそのうちバレるので書きますが、紀伊國屋書店です。自分が働いているのは、都内の大型書店に比べるとそこまで大きな規模だとは言えない店舗です。しかし、お客さんがまず目にする棚である入り口近くに『成瀬は天下を取りに行く』が山積みに売り出されており、賞を取ったので当たり前といえばそうなのですが、しかし、直木や芥川といった賞よりも

    • #28 "AIのウラ"「創作段階にAIを絡ませることの是非について」

       少し発表から時間は空きましたが、2024年前期の芥川受賞作である『東京都同情塔』(著:九段理江さん)を読みました。   ザハ・ハディドの建築様式というテーマなんかが絡みつつ、新AI時代の価値観に切り込んだ作品です。作中にもそのままの名前で登場する『東京都同情塔』というのは罪を犯した犯罪者を収容する施設であり、しかし現存の刑務所と大きく異なるのは、そこがあまりに住み心地の良い楽園であるという点です。犯罪者にもそうならざるを得ない不可抗力が働いており、彼らこそ同情されるべきで

      • #27 ”同意のウラ”「女性を性加害告発へと向かわせるもの」

         昨年末にスキャンダルとなった、松本人志さんへの性加害告発を皮切りに、過去の性被害が公のもとに晒されるという事案が多く目につくようになった。   またこうした著名人のみならず、一般人にもその波が及んでいる。   もちろん真実は定かではないので、ここでどうとか書くつもりはないのだけれど、少なくともニュースを読む限りでは、そのどれもが「何が問題なのか分からない」という感想しか出てこない。暴力を掴んで引きずり込んだという事実もなければ、何か重要なネタとともに強請ったという証拠が

        • #26 ”更生のウラ”「性犯罪DBSの妥当性について」

           性犯罪DBSの導入が、今ちょうど検討されているようだ。  性犯罪者が刑期を終えた後、子どもと触れ合えるような職につくことを制限することが目的だろう。イギリスなどではすでに導入されている制度のようである。  ちょうど法曹youtuberである岡野タケシ氏がShort動画でこの件について言及しているので見てみたのだが、コメントは驚くほど賛成派で溢れかえっている。  実際に動画を見てもらえば一目瞭然だが、コメントは制度に賛成する意見で溢れかえっている。その人権やプライバシー

          #25 ”芸人のウラ”「なぜ芸人には女性が少ないのか」

           ……という疑問が、つい最近、天から降ってきた。  ある母集団においてその女性の数が少ないことは、しばしば女性差別だと糾弾され、大学の理系学部や、あるいは管理職においてそうした動きがあったというのは誰もが知るところだろう。  しかしそれは、この世のあらゆる集団において適用される法則ではない。例えば過酷な肉体労働により支えられている第一次産業に対し「男性優位!女性がそこに行けない!」という声が向けられているのを聞いたことはない。他でもなく、女性がそうした労働を好まないからだ

          #25 ”芸人のウラ”「なぜ芸人には女性が少ないのか」

          #24 "日本のウラ"「終末医療から見る『無神教』の影響について」

           ちょうど昨日、巷でやたらと話題になっていた世直しYoutuberについての見解をまとめた。   主に書いたのは、こうした女性を不快にさせる者への私的な制裁への熱狂は、日本の『無神教』に因るものではないかという視点だ。  日本では信教の自由が確立されており、何を信ずるも各人の自由とされている。その自由をもとに信仰が人々の間で分散した結果、大多数が信仰した『女性への崇拝』は逆に社会の持続性を危うくしてしまうのではないか——そう自分は考える。それが例えば過去においては『束とな

          #24 "日本のウラ"「終末医療から見る『無神教』の影響について」

          #23 ”日本のウラ”「私刑が炙り出す『無神教の地獄』について」

           主に8月の下旬ごろから、とあるインフルエンサーの存在が拡散されているのを目にし、その存在がずっと気になっていた。  私刑——即ち、警察等の公的機関ではない一般市民が有害とみなした人間に私的な制裁を加えるような行為——をネット上に公開するという形で視聴者を獲得するような動きがちらほらと見られたのである。  いくつか例を示すと、駅を不自然に徘徊していた人間を問い詰め警察に引き渡すといった様子を投稿し話題になったガッツChや、また、不自然なカメラに気がついた際、その者の体を拘

          #23 ”日本のウラ”「私刑が炙り出す『無神教の地獄』について」

          #22 "世界のウラ"「世界で最も穏やかな反乱」

           憂鬱なニュースである。  今の日本人口を1億2000万として、平均寿命の80くらいで割ると約150万だ。ひとつの代にはそれくらいの人口がいないとおかしいはずなのだが、2023年に生まれた子ども数はそれよりも少ない数になる。いや少ないどころか、半分にも満たないかもしれない。  この動きは天井を突き抜けるまで加速することだろう。正直、誰かの手で食い止められるような類のものではないからだ。  自分の知り合いにも、どちらかに専業役割を頼むようなカップルはまるでいない。共働きで

          #22 "世界のウラ"「世界で最も穏やかな反乱」

          #21 "コロナのウラ②"「すぐそこにある武器」

           昨日の続きです。  今日も体力温存のためサクッと短めに書きます。 ********  昨日の記事では『コロナ禍において人々が最も不得意としたのは「死」そのものへの受容ではなく、新しく死の種類が増えるのに慣れること』ではないか、ということを書きました。大学最後の一年を奪われた身として腸が煮えくり返るような思いを抱えていましたが、結局、そうした死の敬虔さを前にすれば人は(また、自分も)無力だと受け容れることで、その過去の記憶もある程度は寛解したように思います。  その寛

          #21 "コロナのウラ②"「すぐそこにある武器」

          #20 ”コロナのウラ①”「私たちが一番苦手なこと」

           最近ちょっと体調を崩していて気分が非常にメランコリーなので、偉そうに社会を分析するような記事からはちょっと離れます。  代わりに、コロナ渦を振り返ろうかなと。  少し文章量を抑え、今日と明日、二日に分けてみます。今日のテーマは『死の敬虔さ』についてで、明日は『正義はいつもそこにある』というテーマで書こうと思っています。 ********  コロナウイルスの騒動が始まったのは2020年の3月ごろだったと記憶しています。当時の自分は大学3年生で、4年生への進級を間近に控

          #20 ”コロナのウラ①”「私たちが一番苦手なこと」

          #19 "お笑いのウラ"「『笑い』でやっと関われたのに」

           TBSのバラエティ番組である『水曜日のダウンタウン』において、このような企画があったようだ。  実際に放送を見ていなくても、以下のまとめを見るとだいたいの流れがよく分かると思う。  この放送に関し、面白いという賞賛のコメントが多数を占める中で、やはりこの訴えかけるような酒井氏の表情が共感を誘ったのだろうか、結婚挨拶に番組が踏み込むなんて、というような批判的なコメントも散見された。   そして、時間をおかずしてこの放送である。   もともと水ダウは過激な企画が多い番組

          #19 "お笑いのウラ"「『笑い』でやっと関われたのに」

          #18 "障害のウラ"「愛は地球を救うけど」

           24時間テレビ。  そのなかに、このような企画があった。   甲子園の話題などでこの記事にも引っ張りだこな大谷翔平だが、まさか本記事においては、24時間テレビに関する話題での登板だ。  この企画について取り上げようと思ったのは、企画に対しての世間の反応があまりにも冷え切ったものになっていたからである。   このツイートの引用欄を見てもらえばわかる通り、誇張抜きに、この企画に暖かい応援のメッセージを寄せる人間はひとりも見受けられなかったのだ。  テレビ離れをそのまま

          #18 "障害のウラ"「愛は地球を救うけど」

          #17 "自由のウラ"「何だっていいじゃん」

           慶應高校が甲子園において快進撃を遂げているという話について先週まとめたのだけれど、その記事が、今までの中でも特に初速の反応がよかった。   ちなみに、この記事を書いている今、慶應高校は決勝進出を決めて仙台育英高校との決勝を控えている。優勝すればそれは実に100年ぶりともなる快挙ということだ。  そんな勢いを見せる慶應高校において、一人の選手にインタビューを行ったという内容の記事が東スポからあがっていた。   イケメンですね……。  記事ではこのように述べられる。

          #17 "自由のウラ"「何だっていいじゃん」

          #16 "世界のウラ"「加害と被害の二項対立に帰着するマズさについて」

           一昨日、韓国DJがセクハラにあった件についてまとめた。  だいたい世間のニュースなんて三日もすれば忘れ去られ、誰も話題になんてあげなくなるものだけれど、どうやら今回は少し長い。未だにこの話題が擦られている原因は、次の一点にあるように思う。  被害者も、他人を加害者にしないような立ち振る舞いを心がけるべきだ——。  この言説が、日本ではどうやら相当なフックになってしまうようなのである。Xの議論を見ていても「被害者を責めるような発言はひとつも許すべきではない。加害者を罰し

          #16 "世界のウラ"「加害と被害の二項対立に帰着するマズさについて」

          #15 ”世界のウラ”「悪童を消費するうえで」

           少し前のことになるが、こんなことがあった。  また、このニュースも記憶に新しい。   たった二件のニュースを持って判断するのは早計かもしれないが、しかし自分はこんなことを思った。  やはり本物のワルだからこそ、ワルの演技もうまいのではないか。 ********  また最近、こんなこともあった。  テニス界においてラケットを破壊するというのは珍しい光景ではない。世界的なトッププレーヤーのジョコビッチですらそうしているのをよく目にする。テニスというのは孤独な競技だと

          #15 ”世界のウラ”「悪童を消費するうえで」

          #14 "性犯罪のウラ"「戸締りをしたくない資産家の悩み」

           韓国から訪れたDJが、日本人による性的被害を受けた——そんなニュースがXのタイムラインを賑わせていた。男女に加えて日韓の分断にも広がっていた議論に首を突っ込むのは気が引けるのだけれど、初回ということで実験的に書いてみたい。  こういう事件が起きたときの世間の反応は決まっている。「露出度の高い服を着ている人間にも責任がある」というサイドと「そんなことが言い訳になるはずがない。いかなる場面においても犯罪を正当化する理由にはなりえない」というサイドに大きく二分化し、互いに睨み合

          #14 "性犯罪のウラ"「戸締りをしたくない資産家の悩み」