#27 ”同意のウラ”「女性を性加害告発へと向かわせるもの」
昨年末にスキャンダルとなった、松本人志さんへの性加害告発を皮切りに、過去の性被害が公のもとに晒されるという事案が多く目につくようになった。
またこうした著名人のみならず、一般人にもその波が及んでいる。
もちろん真実は定かではないので、ここでどうとか書くつもりはないのだけれど、少なくともニュースを読む限りでは、そのどれもが「何が問題なのか分からない」という感想しか出てこない。暴力を掴んで引きずり込んだという事実もなければ、何か重要なネタとともに強請ったという証拠があるわけでもなさそうだ。被害を訴えているぶん、女性は何かしらの形で不快感を得たのだろうということは分かるが、それ以上の情報、つまり刑事罰に問われるような根拠がどこにあるのかという点については誰も語ることができていない——というように見える。
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こうした性被害に関するニュースを巡り、ネットでは男女間における分断がさらに顕著になっているように感じられる。若いころにスターとの性行為を楽しんでおきながら後々それを告発するムーブを「二毛作」と揶揄するスラングが有名になり(このスラングは前々から存在するもの)、特にサッカーの伊東選手の告発の際には、記事を出した新潮社に対する誹謗中傷(主に男性から)が止まなかった。
まず前提として断っておきたいのは、さすがに不同意性交罪なるものは頓珍漢である。
上記の画像で説明されるところの、現行法で問われる罪状には、多くの人が違和感を示すことはないだろう。有形力である暴力や脅迫により女性を頷かせる行為は刑罰の対象となって然るべきである。
ではそこで改正案を——と思ってみると、これがどうも怪しいのである。たとえば交際前の男女が飲みの場に共にいることはよくあるだろうし、また、上司と部下や先輩後輩といった立場から恋愛に発展するケースは多々あるだろう。しかしそうしたものが、女性が不同意を訴える原因の一つであると書かれているのを見ると、男性目線、当然のごとく「では正しい性交が何かを示してくれ」という気持ちになってしまう。これを書いている筆者だって、上記のいかなる条件も満たしてきたと胸を張ることはできない。
つまるところ、男性の不満は次の点に集約されるのではないか、と思う。
訴えられる性交と、訴えられない性交の境目、が何ひとつとして分からないのだ。
たとえば万引きにおいては「商品をレジに通さずに店を出る」というような、犯罪となる行為が明確に示されているからこそ、我々はその決まりを守ろうと思うことができる。しかし「買い物中に出口に近づいたので店員が不安になった」というような理由で万引き犯として訴えられるような店には、誰にも買い者に出かけたいとは思わない、というのがごく普通の市民感覚だろう。しかし不同意性交罪に関してはそれを当たり前のようにやってしまっていると言わざるを得ない。有罪と無罪の境目が分からなければ(その境目を決める権限が司法ではなく一個人にあるとなれば)、当然その行動からは手を引くのが妥当なリスク管理となる。
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と、ここまでは、不同意性交罪にまつわる男女のアクションを表面的にまとめたにすぎず、それこそXでいろんなアカウントの投稿を見ていれば当然の結果として導かれる感想だろう。
しかしここで話を終えるべきではないと思うのは、一連の流れを見て、筆者にはこうも感じられるからだ。不同意性交罪に対する男性側の反応も、女性の特質を誤解したことにより発生している側面が大きいのではないか——と。
それは何かといえば「こうした不同意性交罪により女性が糾弾したいのは、その文字通りの”不同意”による”性交”ではない」という点だ。これを多くの男性が見落としているように思うのだ。
不同意の性交が罪と書いておきながら、それなのに女性はいったい何が不快なんだ——そういった反応は尤もだろう。しかし一連の告発ブームを見ている限り、どうしても自分には、別のところに争点があると思わざるを得ない。
女性が不快を感じるのは、その文字通り性行為に及ぶことではなく、自身が体を預けた相手が自分の人生の責任を取ってくれないこと——そこにあるのではないだろうか。また、性行為に及んだ相手が、後から自分の人生を預けるに相応しくない男性だと感じるようになった場合、と言ってもいい。即ち、女性が「その性的資産を投じるだけのメリットがなかった」と判断した際に性加害の告発というものは行われており、性的資産の搾取それ自体に反応しているわけではない、ということを男性はもっと知っておくべきだと思うのだ。
こうした補助線を引くことで、たとえば「恋愛経験のない男性がより女性に近づきにくくなる」というような意見は、確実に的を得ているとは言いにくいことが分かるのではないだろうか。たしかに男性目線、訴えられるリスクがあるなら恋愛なんてこりごりだと思うのは当然だ。しかし女性は性交自体ではなく、性交を許した男性のその後の態度を見ている。にもかかわらず、不同意性交罪という言葉をその文字通りに捉えてしまったピュアな男性が「性交自体を訴えられる」と解釈してしまうのも、どうももったいないという気が自分にはしてしまうのだ。
不同意性交罪が、ある程度の交際歴があるカップルや夫婦から発生したというケースは聞いたことがない(あったら申し訳ない)。だから例えば、まずは交際を申し込み、初夜にいきなりではなく一か月ほどの期間を空け、そこで体の関係を持つくらいのペースで進めば、少なくとも不同意性交罪で訴えられるケースはないのではないか、とも思う。何が言いたいのかと言えば、不同意性交罪によって女性が取り締まりたいのはあくまで「私たちをヤリ捨てするバカ男」であり「女性に交際を迫る、いわゆる非モテと言われる層」ではないという点だ。要は、女性はマイルドな婚前交渉の禁止を推奨しているのであり、婚前交渉をするからには結婚しろ(=私を幸せにしろ)というメッセージを発したいのだろう。それに背いた男性が、時代の流れにより、次々に性加害者として磔にされているような印象を受けるのである。だから女性にとっては非モテなど端から批判の対象ではなく、そもそもそういった存在には性交を許さないわけであって、それで女性はよく、不同意性交罪に反対する男性に対し「どうしても素人とヤリたい非モテ」というレッテルを貼るわけだ。なので個人的には、そのどっちもが相手の意図を勘違いしているんだよな、という感想を抱いてしまうのだ。
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かなり擁護したけれど、とりあえず、不同意性交罪がおかしいことは間違いない。それを罪たらしめる要因が女性によって左右されることは問題だからだ。しかし、それを多数の男性が「女性は、我々男性との性交それ自体に拒絶反応を示している」と勘違いすることで——即ち、善良な男性が不同意性交罪を文字通りに捉えてしまうことで——若者の恋愛離れが進んでいるような印象を受けるのだ。
だからこう言っては何だけど、男性はどんどん女性にアプローチをしたらいいと思う。最低限の清潔感だけちゃんとして、一緒に出掛けたいと思ったら「デートしたい」と言えばいいし、交際後に距離が縮まったら「セックスしたい」と言えばいい。交際後にそれを言うならただヤリたいわけじゃないだろうし、女性だって、それを拒絶するような相手とはそもそも交際を許可しないだろう。仮にそのあと男が女性を幻滅させるような行為をとったとて、女が反旗を翻し、かつての性交を不同意とするのにはさすがに無理があると考えるのが一般的だ。ヒカキンが文春砲を浴びた件も、似たような感じですぐ忘れ去られた印象を持っている。
まとめると、不同意性交罪は「本当はそうではないにもかかわらず、性交に対するハードルを上げている」という点でかなり性質が悪いように思うのだ。だからたとえば「体を許したのに結婚してくれなかった罪」なんかに名前が変われば、すくなくとも恋愛なんてやめてやると思う男性は減ったりしないだろうか。とりあえず、せめて「性交それ自体ではなく、その後の態度が問題になる」という印象を与える罪名に変わってほしいのだ。
とにかく、善良な男性を遠ざけることだけはやめてほしい、と思う。
自分をヤリ捨てするような男を取り締まりたい女たちの過激な言いぐさで、そもそもその批判の対象ではなかった善良な男性が恋愛市場から遠ざかる——そんな今の現状が、あまりに歪んでいて目も当てられないと思うことが多いのだ。
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