見出し画像

スマホの過信に御用心

「その新人、メモをとらせようとしたらいきなりスマホを取り出したんですよ」

月に一度の恒例となっているサロンで、私はこの日担当してもらっているF氏から施術を受けている間、最近の新人についてメモを取ることの一事情を聞いていた。

彼曰く知り合いが勤めている会社に新人が入ってきたが、PCを直接持ち込めないところの現場では、メモ用紙とペンを持たずにスマホを用いて写真や動画を撮影したりする姿を頻繁に見かけるそうだ。

その新人の行動については解らないでもない。私も近頃では手持ちのスマホを用いて、特定のものをメモ代わりに写真として撮影する機会が増えてきている。

とはいえ、社会人なりたての頃はペンとメモを手に取って先輩ないし上司の話を聞きながら、かつ特定の物を見ながらひたすら筆を走らせていたものだった。

しかしそれだけでは、一度や二度だけではうまく聞き取れないところもあったり、書き記すべきだった肝心な箇所が抜け落ちていたりもしていた。

そのたびにもう一度教えをうも『何度同じ説明をさせるつもりだ!』といった先輩たちからの衝突をなるべく回避するために、次第にその手法を使うようになったものである。

気持ちはわからないでもないと思いながら、私はさらにF氏の話の続きを聞いていた。別の日に、新人の教育係を担当する先輩が一つの業務について説明をし始めようとすると、またしてもその新人は再びスマホを取り出したのである。

「なぜこのタイミングで?」と、疑問に思った先輩は直接新人に質問を投げてみると「スマホのアプリを使って録音するんです」と返してきたという。

これには思わず驚いてしまった。たしかに最近のスマホは、機種やアプリによっては動画を撮影した際の音声はさることながら、市販のICレコーダーに劣るとも勝らない音声を録音することができる。

一昔前までのモデルでは実現しにくかったものが、現行ではいとも容易くそれでいて綺麗に録れるからこそ、そこに関して一つ知恵が回ったのだろうと感心したいところではある。

だからといって先輩の話を録るという行為については、人の話を聞いて理解するのが苦手な私でも、さすがに理解が追いつかなかった。

さらに録音した理由については「ふと忘れてしまった時に聞き返すためです」と言っていたらしい。

だがその姿勢ではこれからずっとスマホに頼ってばかりいては、万が一無くしてしまった時に路頭に迷う羽目になってしまうのではなかろうか。

その先輩は今も、スマホをある意味で巧みに活用する新人について一抹の不安を抱えている。一連の話をしているF氏も、それを聞いている私も共感せざるを得なかった。

 

施術が一通り終わって店を離れてからしばらくの間、その行動に移す新人の気持ちは一つもわからないわけではないと考えていた。

ただスマホの性能が向上したからといって、仕事をこなすために写真や動画を撮影したりましてや音声として記録しておいたりと、なんでもかんでもスマホに頼りっぱなしなのは少々受け入れ難い行為だと思う。

その反面、これまで自分が経験してきたことを踏まえて、もしかしたらどこかで自分もそれらと似たようなことを、無意識のうちに行動に移していたかもしれないと振り返るのである。

だからこそいつの時代も、前例のない手法に驚かされては線引きが難しいと悩まされるのだろう。

そんなふうに考えるようになった私も、紆余曲折を経て年を取ったものである。

最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!