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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座31デジタライゼーション(②SoE)の実践-RPAによる現行業務の自動化はDXではない-

 RPA(Robotic Process Automation)が登場した頃、業務を自動化できるツールとしてデジタル化に遅れた企業でもDX推進できる切り札として注目されました。RPA自体の有効性は間違いなく大きいのですが、RPAの導入や利用がDXにつながるかというと、それは違います。

 本講座で何度も強調してきたように、どれほどデジタル化に取り組もうとも、現行業務を対象としている限り、それは単なるIT化であり、DXではありません。DXは新たな価値創造を生み出すために取り組む未来のあるべき姿を実現するためのデジタル化なのです。

 それではRPAはDXツールではないかというと、そうではありません。一部署内、一担当者の仕事を楽にするためにRPAを利用するのではなく、今まで顧客や取引先に向けて提供できていなかったデータ提供などのサービスをRPAによって実現するのは、りっぱなDXです。

 たとえば、データベースに接続して顧客ごとの取引実績からポイント集計し、メールで通知するといった作業は人手だけで行うのは手間がかかりすぎるでしょう。しかし、RPAを使えば自動化することが可能です。

 こうした作業の自動化は従来であればシステム開発で対応することが一般的でした。しかし、その実現に時間やコストがかかりすぎたり、システム変更が困難という問題がありました。RPAであれば新しい顧客価値を簡単に早く提供できるのです。

 現行業務の効率化にRPAを使うことはDXとは言えないとしても意味がないわけではありません。多くの企業が現行業務に手をとられて新しいビジネスを創造する時間を作れないという現実を考えれば、RPAはDX推進のための救世主と言えるかもしれません。

 しかし、せっかく社内業務のためにRPAを使うのであれば、SoR(System of Record/記録のためのシステム)の視点からも考えてみることが重要です。データベース接続や集積、ExcelファイルやPDF帳票の出力などの自動処理ができるRPAツールであれば、既存システムではできないデータ処理も実現できるかもしれません。

 結局、RPAがDXツールになるのかどうかは、現行業務を自動化して自分達が楽になることを目的としているのか、自動化することで今まで実現できていなかった顧客価値を実現することを目的としているのかによって決まります。

 Microsoft Automate Desktopはデスクトップ操作を自動化できるツールであり、Windows 10 および Windows 11 ユーザーであれば無料で利用することができます。DX推進のための予算化が難しいという話しをよく聞きます。Microsoft Automate Desktopのような無料ツールをうまく活用して、まずはDXとは何かについて社内の理解を深める取り組みをしてみてもよいのではないでしょうか。

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