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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座22デジタライゼーション(①SoR)の実践-標準化とAPI連携、さらにはAPIエコノミー、そしてエコシステムへ-

デジタライゼーションのうち、SoR(System of Record)は正確に記録することを目的としたシステムを指し、いわゆる会計や人事、販売管理、生産管理といった業務システムがこれにあたります。業務システムはビジネス活動を行う組織であれば必ず必要になるものであり、本体であればどこでも同じ機能があれば済むはずです。パッケージソフトはその考え方から開発されたものです。
 
しかし、現実には企業ごとに様々な業務システムが存在し、取引関係にある企業同士で発注登録と受注登録が別々に行われ、受発注データ交換(EDI)や受発注サイト(EC)が用意されている場合でも、相手先のためのデータ入力や運用の手間がかかっていることが普通です。(ソフトウェアロボット(RPA)によるデータ入力や運用の自動化については別途後述します。)
 
 経産省のDXレポート の中で、「2025年の崖」問題として、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合に想定される国際競争への遅れや我が国の経済の停滞を引き起こすことを指摘していることは先に述べました。2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了などが「2025年の崖」問題をさらに重大なものにしています。古い業務システムの保守費が増大するだけでは済まず、保守自体ができなくなる恐れすらあるのです。
 
 「2025年の崖」問題を回避するためには、手間がかかりすぎるSoRをスリム化することが必要です。余計なカスタマイズをなくすことは不可欠であり、自部署だけが楽になるからといった理由で余計な機能や帳票を業者につくらせるという悪しき慣習はやめなければなりません。DX時代の業務システムは全体最適、未来志向でつくるべきなのです。
 
 業務の標準化ができれば、オーダーメイドでシステム開発する必要性はなくなり、クラウドやパッケージソフトを活用することによって、開発や保守コストも減らすことができ、システム導入や入れ替えも短期間でスムーズにできるようになるはずです。
 
 しかし、業務システム(SoR)の問題は標準化による余計なカスタマイズの排除だけでは解決しません。たとえ部署の壁を越えて自部署勝手なシステム開発を許さないようにしたとしてもまだ「2025年の崖」問題を回避するには足りないのです。
 
 「2025年の崖」問題を回避するためには企業の壁をも越える必要があります。そもそも企業のビジネス活動は発注と受注のように企業間で連鎖しています。もっと言えば、さらに上流や下流までサプライチェーンとして連鎖しています。同じようなデータやシステム機能が取引企業間はもちろんのこと、サプライチェーンの中で重複しているのです。
 
 理想的なSoRを実現するためには、個々の企業が標準化を進めてクラウドやパッケージソフトの活用を進めるととともに、企業間やサプライチェーン連携によってデータや機能連携を進めていくことが必要になります。販売管理上の商品マスタや生産管理上の計画、進捗実績データ、さらには環境や食品安全や労働安全のためのトレーサビリティなど、企業間やサプライチェーンで共有、連携すべきデータは枚挙にいとまがありません。
 
 そこで注目されているのがAPI連携であり、特にオープンなシステム連携が可能なWebAPIです。たとえば、発注する企業側で発注先の商品コードを知りたい場合、受注企業側システムのWebAPIを呼び出して、リアルタイムで参照することができます。
 
WebAPIが用意されていれば、相手企業側のデータをリアルタイムで参照することができます。その実現のためには、企業双方でWeb APIを実装しておくことが必要です。WebAPIを実装することによって、重複するデータやシステム機能を持つ必要すらなくなるのです。
 
WebAPIはシステム開発や保守にかかる負担を減らしてくれるだけではありません。実はSoRをWebAPI化することによって、自社業務をサービス化して顧客獲得できるようになります。これこそDXの最終形態であるデジタルトランスフォーメーションであり、顧客企業が自前だけでは実現しにくいサービス機能を提供して圧倒的な競争優位を得ることになるのです。
 
便利な機能を自前で開発しなくても、WebAPIを利用してすぐに自社システムに組み込めることを「APIエコノミー」と呼び、WebAPIで強結合した企業連合体を「エコシステム」と呼びます。「エコシステム」に参画できない企業は取引相手にもなれず、サプライチェーンから排除されていくことになります。これこそがDXが企業の存亡にかかる経営戦略と言われる理由なのです。

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