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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座30デジタライゼーション(②SoE)の実践-ブロックチェーンが激変させる企業内外の取引連鎖-

 ブロックチェーンはビットコインとまとめて議論されることが多いのですが、実はビットコインはブロックチェーンの一要素であるトークンを応用した技術であり、ブロックチェーンではトークンの利用はあくまでも任意です。
 
 むしろ、ブロックチェーンの醍醐味はまさにブロックをつなぎ合わせるようにデータを記録していくところにあり、「ハッシュ関数」や「電子署名」といった暗号技術を用いることで、データの改ざんを容易に検出できる(=容易に改ざんできない)仕組みを持っている点において。証拠として残す必要のある取引記録に欠かせないものとなっています。
 
 ブロックチェーンでは、多数の利用者が取引記録のコピーを分散保持する分散型台帳の形態をとっているため、通常のデータベースと違って一部のコンピュータがダウンしても、システム全体がダウンすることはありません。また、この取引記録は削除できないため、証拠として残り続けることになります。
 
 受発注や請求書発行など企業間商取引を仲介するEコマースでは、ログイン認証や更新ログ、タイムスタンプなどによって、不適切なデータ変更が行われないように対策されています。しかし、パスワード漏えいや管理者アカウントの悪用など不正アクセスのリスクが消えることはありません。
 
 これに対してブロックチェーンでは、分散保持されたデータを全て変更することは現実的に極めて困難です。さらにブロックごとにリンク情報がひも付けられており、その整合性をとりながらデータ変更することは実質的に不可能です。(ブロックチェーンの暗号技術は改ざん防止だけに利用されており、データ盗聴に対しては別途対策が必要です。)
 
 こうした優れた特徴を持つブロックチェーンは電子マネー以外にも応用分野を広げつつあります。不動産投資などではブロックチェーンを利用したデジタル証券によって、オンライン処理だけで瞬時に契約締結することができるようになっています。
 
 主なブロックチェーンの事例としては、デジタル証券に親和性が高い金融や保険、不動産業界はもちろんのこと、自動車の走行距離や車検証明、美術品や宝石の鑑定書、学位証明の発行、職歴の証明、ペットの血統書、音楽など著作権管理、医療機関による電子カルテの共有などすでに枚挙にいとまがない状況です。
 
 さて、ブロックチェーンのDXにおける意義としては、デジタライゼーション(②SoE)の実践にあると言えるでしょう。まさにブロックチェーンは企業内外の取引連鎖を激変させる可能性が高いです。特に欧米ではブロックチェーンの利用が急速に進んでおり、手形発行やトレーサビリティ(製造や食品、環境)など次々と新たな応用事例が増え続けています。
 
 ブロックチェーンはDXにおいて台風の目のような存在になりつつあります。今後、業界のリーダー企業はブロックチェーンを利用した企業間情報連携のためのプラットフォームの構築をめざしていくことでしょう。
 
 その結果、従来、強固に結びついていた下請関係も鎖が外れるように崩れていき、ブロックチェーンによる情報連携プラットフォームという新たな企業間連携の生態系-エコシステム―に参加できる企業によって取引関係が刷新されている可能性があるのです。
 
 いまだ紙ベースの事務処理や、古い業務システムを抱えている企業が不利になることは言うまでもありません。また、企業間で共有するデータには高い品質が求められることから、情報セキュリティの取り組みも高度化が求められることになります。情報システムの設計や開発時点から情報セキュリティを考える「セキュリティバイデザイン」や不慮の事故があった時に被害を拡大させないための「インシデントレスポンス」への対応も急務です。
 
新型コロナワクチンの接種記録では既にブロックチェーンが利用されていました。DXを知らなくても、既に多くの人や企業がDXのうねりに巻き込まれているのです。

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