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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座37デジタルトランスフォーメーションの実践-デジタルシフトとデジタルトランスフォーメーションとの違い-

 DXの話しを読んだり聞いたりしていると、それはDXではないということがいまだに少なくありません。やはりDXをIT化と同義で考えている人がまだまだ多いということなのでしょうが、その原因は実は深いところにあるのではと最近になって思い始めています。
 
 「D」のイメージはあっても「X」のイメージがつかない人が多いのではないでしょうか。ビジネス革新する気がないのではなく、ビジネス革新するイメージが持てないのではないでしょうか。その結果、DXの多くがアナログ業務をIT化する「デジタルシフト」にとどまってしまっているのではないかと思うのです。
 
 デジタルシフトが悪いわけではありません。情報を電子化するデジタイゼーションは、DX推進における重要なファーストステップです。電子化の対象となるのは現行業務で使われているアナログ情報であることは当然のことです。ただ問題なのは、それを何のためにするのか、なぜデジタル化する必要があるのかという「目的意識」にあります。
 
 「D」の文字が「X」よりも先だからデジタル化からするのだと思っている人はいないでしょうか。トランスフォーメーション後のイメージを持たずに、どのようなデジタル化を推進すべきかわかりようがありません。
 
 作業として取り組みが先に始まるのは「D」からだとしても、その前にめざすべき理想像としての「X」を先に描くことが不可欠です。
 
「D」→「X」ではなく「X」←「D」なのです。
  
 メジャーリーグで活躍する大谷選手は、子供頃からプロ野球やメジャーリーグの選手になることをゴールにして人並み以上の努力をしてきました。人並み以上の努力をしたからプロ野球やメジャーリーグの選手になったのだという順番で考えてはいけません。成りたい未来の自分があるから人並み以上の努力ができたのです。
 
 同じDXの取り組みでも、「D」→「X」と「X」←「D」とではどれほどの違いが出てくるのでしょうか。いくつか例をあげて考えてみましょう。
 
 企業子商取引のプラットフォームとして有名なインフォマートは、受発注企業双方のデジタル化を促進する情報サービスとして定着しています。多くの業務パッケージが見積や受注、納品、請求といった一企業における業務の効率化を目的としていたのに対して、インフォマートは当初から引合と見積、発注と受注、納品と仕入、請求と入金という企業間の壁を越えたデジタル化を支援してきました。
 マッチングサイトが乱立する昨今においても、インフォマートのサービスは色あせていません。次々と出てくる新たな商談マッチングや人材紹介サイトは、既存の営業代行や人材紹介サービスをWeb化しただけであり、その多くが数年の間に消えてしまっています。
 
 Webマーケティングは「SoE」関係のためのシステムとして、売上を増やしてくれるDXの花形のように扱われることが多いのですが、コンテンツマーケティングもCRM顧客関係管理も結局は宣伝広告のため顧客の囲い込みのためというのであれば、従来からある営業活動と本質的に何ら変わるものではありません。DXとしてのWebマーケティングならば、自社と顧客の壁を越えた顧客共創の手段としてWebを使うべきであり、だからこそ顧客が新商品を先買いするようなクラウドファンディングが成り立つのです。
 
 業務システムのクラウド化はオンプレミスの業務システムの開発保守コストを軽減するという意義もありますが、クラウド化した先には何があるのでしょうか。クラウド化された業務システムには社外からでもアクセスすることができます。テレワークを促進するだけでなく、一部のシステム機能を顧客や取引先に公開することも可能です。サプライチェーン間でデータ連携できれば、在庫過不足や納期遅れをなくせるかもしれません。
デジタルツウィンによって、サプライチェーン全体がバーチャルな工場や企業のように見えるようにすることもできるでしょう。
 
今さえよければいい、目先のお金が欲しいという組織ではDXを推進することはできません。こうなりたいんだというはっきりとしたビジョンが必要です。そのためには、組織の前にそこで働いている「人」のトランスフォーメーション―進化―が鍵となるのです。

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